2011.12.1
 
Books (環境と健康Vol.24 No. 4より)

 

中村安秀・河森正人 編

グローバル人間学の世界


大阪大学出版会 ¥ 2,400 +税
2011 年4 月15 日発行 ISBN978-4-87259-296-2C3030

 

 

 2007 年 10 月に大阪大学と大阪外国語大学が統合され、学生数 1 万 5 千人以上、開講されている語学コースは 25 種に及ぶ、日本最大級の総合大学となった。本書は、その際に誕生したグローバル人間学専攻のスタッフが中心となって出版したものである。

 本書の序章では、20 世紀の代表的な哲学者、ジョン・ロールズの「自由を犠牲にした社会主義と平等を犠牲にした市場原理主義を乗り越えよう」との世界的な課題を取り上げると同時に、同時期の経済学者、アマルティア・センの「人間の生活状態を評価する際の基準としての潜在能力」、すなわち「人が価値をおく生を生きられる力」を評価している。この上に立って、「生きる」、「移動する」、「つながる」の 3 点に絞って、世界の人々の「潜在能力」を評価し、一律でない「自由」と「平等」の「あわい」を検証している。多様な環境と伝統に生きてきた世界の人々を一つの価値観で理解するのは、元々大変僭越なことである。

 本書では、「生きる」の章で、(1)アフリカ地域の初等教育、(2)国際保健、(3)アジアにおける性風俗産業の矛盾、(4)ベトナムでの戦争に関する個人と国家の矛盾、(5)ジャワ島仮面舞踊の伝承と創作、(6)シベリア先住民の文化としてのシャーマニズムなどが取り上げられ、「移動する」の章で、(1)フィリピンに移住した中国系移民の遺産相続の革新性、(2)多言語共生社会に向けての実践、(3)共感と連帯を呼ぶ難民支援等に言及し、「つながる」の章で、(1)AIDS(エイズ)と共に生きるための連帯、(2)文理融合の知恵による国際的な資源循環型の社会、(3)スポーツを通じた開発と協力、(4)生活の安全保障としての地域の絆等が論じられている。グローバル世界の中で、ヒトはつながり、生きていることを再認識させられる良書である。

 

山岸秀夫(編集委員)