Books (環境と健康Vol.24
No. 4より)
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藤田和恵 著 ルポ 患者を守る人びと−医療崩壊の中で |
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(株)旬報社 ¥ 1,500 +税 |
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本書では、元新聞記者が多様な職種の過酷な労働に支えられている格差社会としての病院の医療現場を取材し、医療労働の危機は私たち患者にとっての危機でもあると警鐘を鳴らしている。最初に札幌市内の中規模民間病院の夜間外来の受付室に詰めている警備員の仕事の実体から始まる。救急車のための雪かき、救急車や急患との応対、救急隊員の補助、急患の汚物の掃除、電機や配管の点検、全てが彼の仕事であって、仮眠もなく徹夜で働くことも多い。しかし彼は夜間警備業務の請負会社の非正規社員で、半年ごとの契約更新を繰り返している。しかも勤務形態は、「監視・断続業務」とされ、労働基準法に基づく最低賃金法は適用されない。時給は 469 円である。さらに、「日勤」、「当直」、「日勤」を続けてこなす「36 時間連続勤務」の外科医、「日勤−深夜勤」、「準夜勤−日勤」の連続勤務に耐える看護師、このような過労によって生ずる医療過誤とそれに伴う医事紛争とマスコミ報道に対する不信などが記されている。また医療を支える周辺労働としての医療事務も、請負会社に移管される場合は正社員でも年収 200 万円以下とのことである。清掃職員、電話交換手、調理師、検査技師なども外部委託が多く、「働けど働けど暮らしに追いつかぬ」ワーキングプアとなりつつある。年収では、200〜1,500 万円の格差のある多様な職種の人々の過剰な医療労働に支えられて、国民皆保険、国民皆介護保険制度が成立している。それにも関わらず、「医療費亡国論」が唱えられ、「医療崩壊」の危機が迫っている。 最後に著者は過重労働に身を置いた経験のある医師の発言を引用して、「今と同じ負担で、今と同じレベルの医療をこれからも続けることは不可能です。どのような未来を選ぶのかは、すべては国民が自ら考え、決めることです」と述べている。 山岸秀夫(編集委員)
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