Books (環境と健康Vol.24
No. 1より)
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最所久美子 著 医療と福祉を超えて暮らしを拓く: |
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(株)ミネルヴァ書房 \3,200+税 |
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「まずは医療費削減ありき」の国の方針に起因する高齢者の「在宅介護の推進」は、どこにも行き場のない「介護難民」を増やし、実際には「在宅放置」となる現実がある。本書は一人のライターが、〈地域住民の力を引き出して、医療と福祉の連携を目指そうとの実践を始めた〉一人の「赤ひげ」医師、宮原伸二の生き様を探求しながら、本人に代って社会に発信する異色の「医療福祉文化」論である。 宮原は 1960 年代中頃の「医局の民主化」を図ることを目的とし、インターン制度の改善を目指した全国的な実力闘争の中で医師となり、30 代は秋田県の無医村での「一人医師診療所」に赴任し、巡回検診から始めて住民パワーを引き出して健康増進医学を進めた。しかし「一人医師」が持つ権力の重責に耐えかねて、40 代で高知県の高齢化した僻地の公立保健センターに転勤した。そこでは、「寝たきり高齢者対策」を開始しチームを組んで在宅ケアを行うと共に、診療所を自宅化する「ターミナルケア」も始め、結果として地域の医療費負担の軽減を実現した。50 代では、これまでの経験を医療福祉の教育に活かすべく、岡山県の都市の医療福祉大学に転勤する。ここではキュア(治療)のための医学だけでなく、ケア(親しい心のこもった世話)に結びついた医学の実践を唱えた。しかし都市では「在宅介護」への住民力は薄れていた。そこで 60 代に入り、訪問看護ステーションの NPO 法人を立ち上げ、東北や四国の農村で実践した地域医療の“ 都市版”を始めた。そこで医療者にも介護者にも必要とされたのは、利用者の心を受け止める「感性」であることに気付き、「在宅放置時代」と言われる超高齢社会で、最後まで「自分らしく生きる」ための環境づくりを目指している。すなわち互いに支え合う「医療福祉文化」の醸成である。ここでは病気を診る名医ではなく、むしろ患者を看る良医が求められている。 山岸秀夫(編集委員)
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