Books (環境と健康Vol.24
No. 1より)
|
|
佐藤真一 他 2 名 編著 老いとこころのケア−老年行動科学入門− |
|
(株)ミネルヴァ書房 \3,000+税 |
|
本書は介護保険制度の導入から 10 年が経過した今日、日本老年行動科学会の会員である著者たちが「勘と経験と度胸の介護」から「科学的な方法に基づくケア」へを合言葉に毎月ケアカンファレンスを開いた成果をまとめたものである。第 1 部「高齢者のこころの理解とケア」と第2 部「老年行動科学の基礎」から構成されている。 第 1 部では「人の気持ちは、わかるか?」と問いかけ、認知症高齢者との対応のポイントとして「ひたすら聴く」と「非言語的表現から行動の原因をみつける」をあげている。また高齢者施設における介護職員のストレスもとりあげ、ケアの基本は相互理解に基づく人間関係の形成にあるとする。家族介護も含め、介護は人間だけができる価値ある仕事であるが、一人で悩みを抱え込まずに分担し、自分を大切にしてこそ良い介護が出来ることが強調されている。 第 2 部では「老いに伴う心身の変化」をとりあげ、「老年期とは老化(喪失)の過程であるだけではなく、新に成長(獲得)して行く時期でもある」との生涯発達モデルを紹介している。そこでは、過去・現在・未来の区別の意味が薄れて渾然一体となり、先祖とのつながりを強く感じたり、人類や宇宙との一体感が高まり、生死の区別も低減した宇宙的意識の獲得があるとする。本誌23 巻4 号でお知らせした「いのちの科学フォーラム:ガイア・メディスン」(2011 年 2 月 11 日開催)と通ずるものであろう。超高齢期の安寧に必要なのは、「英知」ではなく、人生の初めの「基本的信頼」であり、そこに若者の理想としての超高齢者に関する肯定的視点を求めている。 近代化と共に高齢者の知恵袋としての社会的地位は低下してきているが、高齢者を支えるものは「生きがい」であり、その対象は「人間関係と仕事・余暇・社会活動の充実」である。今なお「99 歳・私の証、あるがまま行く」を新聞紙上に発信し続けている現役医師の日野原重明が2001 年に提唱した「新老人運動」は「これまでの経験や知恵を活かす新たな役割」を強調した新たな高齢者像を目指すものであり、本誌編集代表であった菅原努先生が提唱された「大学名誉教授の知恵の実社会でのリサイクル」の趣旨と一致する。本書の最終章では、「生きがい」と深く関わる「老いと疾病」が取り上げられ、高齢者で高まる心身相関へのケアが強調されている。 山岸秀夫(編集委員)
|
|
|
|