2010.12.2
 
Books (環境と健康Vol.23 No. 4より)

 

竹内章郎 著

平等の哲学−新しい福祉思想の扉をひらく


(株)大月書店 \ 2,200+税
2010 年 5 月 20 日発行 ISBN978-4-272-43085-7 C0010

 

 

 フランス国旗の 3 色、赤・青・白はそれぞれ自由・平等・友愛を表し、フランス革命を象徴するスローガンでもあった。だが現代の日本では、自由や友愛は重視される一方平等の評価は低く、格差や貧困の容認という点では「自己責任」や「甘え」といった言葉で弱者が切り捨てられる現実を前にして、本書は「平等は何故非難されるのか?」との序章で始まる。しかし法的には、「全ての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分、又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と日本国憲法 14 条 1 項に明文化されている。それでは問題の本質は一体どこにあるのだろうか。

 第 1 章ではギリシャ哲学から始まる不平等と一体の平等論に歴史的考察を加え、第 2 章では、「悪平等はなぜ生まれたか」のタイトルで形式的平等と実質的平等を論じ、平等は同一性と同じでないと断じている。第 3 章では新たなる能力論的平等論と機会平等論をとりあげ、弱者を排除する障害者差別に抗し、単に機会を平等にするだけでなく、それに応ずる個人的能力の差異も共同的な能力実現の一環として位置づけている。第 4 章では新たな平等論の構築を目指し、障害者も含めた多様な能力を社会の共同的な能力として評価し、能力の個人還元主義や個人責任論に基ずく不平等主義に対抗している。重度知的障害児もその家族にとっては「この児との共生の喜び」として生活意欲をかきたてる「高い能力の持ち主」でもあり得る。終章の「平等万歳」では、平等は自由と対立するものでなく、非同一性を含む広い平等主義を世間に少しでも馴らすことから始めたいとしている。

 著者は現役の大学教授でありながら社会福祉法人理事も兼ねているだけに、その論旨には社会的実践の強みが滲み出ている。従って本書は福祉思想の専門書でありながら、新しい平等主義への入門書でもある。

 

山岸秀夫(編集委員)