Books (環境と健康Vol.23
No. 2より)
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佐々木閑 他 4 名 著 脳を知る・創る・守る・育む 11 |
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(株)クバプロ ¥1,200+税 |
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本書は NPO 法人 脳の世紀推進会議主催、第 16 回「脳の世紀」シンポジウムでの講演に基づくものであるが、この種のものとしては大変異色の編集になっている。すなわち脳科学が自然科学としての大脳生理学から文理融合の総合科学への転換点にあることを示している。全 5 章からなり、宗教学、医・生理学、経済学、心理工学を動員した文理の知の組み合わせである。先ず第1 章「脳の科学と仏教的世界観」から始まるが、著者(佐々木 閑)は理系から哲学に転じた経歴を持つ。第 2、4 章の著者はそれぞれ医・生理学の立場から「損傷脳の生存戦略」と「神経疾患治療に向けたタンパク質の品質管理」を語り、第 3 章の著者は実験経済学の立場から「ニューロ・ソーシャルサイエンス」を語っている。最終章「ブレイン‐ マシン・インタフェースでわかる高齢脳の力」の著者(櫻井芳雄)は、第 1 章の著者と対照的に、哲学から神経科学と実験心理学の道に転じた。 評者は、本書の主題へのアプローチとして両極にある、第 1 章と最終章を紹介する。第 1 章では仏教と脳科学は緻密な情報の集合体であり、単純なキャッチフレーズ、「色即是空」や「脳は知性の根源」では表現できないと言う。衝撃的なことは、「しゃか」が見つけた「真理」は「無我」、すなわち本質的には「我」は存在せず死んだら完全に消滅する。しかしやがて死後も超越者に救いを求める一神教的宗教観も内部に生まれて仏教は多様化した。アインシュタイン物理学は、神から眺めた宇宙を記述するニュートン力学に見られなかった「時間の相対性」を論じている。仏教も脳科学も「時間の相対性」を取り入れて、分析と総合を繰り返し、人間を超えた絶対世界の存在と向き合うべきとする。 最終章では、脳神経細胞の活動を解読するシステムをインタフェースとして開発し、作動機のロボットに繋ぎ、「見えないこころを見る」実験的試みとして、ネズミでの自動判別解析システムを紹介している。その結果によると脳はコンピュータと異なり、周辺機器としての身体に見合った活動をしている。すなわちお年寄りにリハビリ運動で体力を回復させる事は高齢脳の力を回復させる事になる。この運動は必ずしもスポーツではなく、文字を書き音読するなどの身体の繰り返し運動である。その意味では、本書 Books の「紙の本が亡びるとき?」での脳機能の不活性化が懸念される。 山岸秀夫(編集委員)
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