2009.12.1
 
Books (環境と健康Vol.22 No. 4より)

 

久保田宏・松田 智 著

幻想のバイオ燃料−科学的見地から地球環境保全対策を斬る


日刊工業新聞社 ¥ 2,200 +税
2009 年 4 月 22 日発行 ISBN978-4-526-06255-1

 

 

 本書は、御用学者と一体となって、科学的に誤った情報を流布して、バイオ燃料生産という無意味な国策を支えているマスメディアに対する告発の書であり、研究費につられて誤った国策に従事している科学技術者が正しい社会貢献の道に立ち戻る事を願ったものである。

 1997 年の京都議定書で、地球温暖化防止のためCO2 排出削減の目標が設定され、その国際的取り決めがなされた。日本政府は農作物や草木などのバイオマスは大気中の CO2 を固定するので、そのエネルギーとしての利用はカーボンニュートラルで、CO2 削減に有効であるとして、欧米に倣って早速国策として、「バイオマス・ニッポン総合戦略」を進めた。その要点は、第 2 次石油危機を契機に石油代替燃料としてバイオマスから燃料用アルコールを生産するところにあった。すなわち石油液化の試みと同様、花形産業の自動車産業用内燃機関に必須の液体燃料の供給を目的とするものであった。しかしバイオマスとしての農作物の利用は、世界的な食糧危機を惹き起こすだけでなく、木材などのセルロース系原料の大量消費は地球規模の自然破壊をも招く。それだけでなく、その液化のための生産・利用技術は未だ未熟であり、菌類などの微生物の力を借りるにしても、大型プラントの設置、運用に当たっては有限の大量の化石エネルギーを消費するので、CO2 の削減にならないことが明白になった。そこで政府は、2008 年に農作物や木材だけでなく海藻も対象とした「農林漁業バイオ燃料法」を制定し、農水産業への助成の手段としてバイオ燃料を位置づけたが、その中ではCO2 削減の目的はどこかに行ってしまっている。

 著者らは、既にほぼ 30 年前に「東南アジア国家アルコール計画の幻想」と題する報告書を出しており、バイオエタノールの国内利用の問題はしばらく沙汰止みとなっていたが、それを国策として復活させたのは、石油危機当時、米国のブッシュ政権が発表した余剰トウモロコシを原料とした燃料用アルコールの大規模な生産計画であった。その影響は食糧輸入国には深刻で、トウモロコシ価格の世界的な高騰をきたしたのは周知のところである。現在世界的に見て最も大切なのは、生命を支えるための食料の確保であって、自動車を走らせるための液体燃料の生産ではない。日本の山林の 1/3 は国有林であり、そこで実施された農水省指導の植林事業の結果として生じた、放置されたままの人工林間伐材や休耕田利用の燃料米を用いるエタノール製造コストも試算されているが、大幅な税負担なしでは、生産価格は化石燃料に対抗できないし、供給量も十分ではないとのことである。本来、自然林や田畑は一体として活用され、里山での建材や燃料としての直接利用や食糧生産に用いられてこそエネルギーの循環社会が成立する。

 そこで著者らは、懐かしき里山経済への復帰は無理としても、現在の生活の豊かさ、便利性を出来る限り維持しながら、CO2 の排出削減目的と両立しうる化石燃料消費削減のための科学技術開発として、削減効果の大きい交通・運輸部門での電気自動車の導入を挙げている。そのためには、補助金目当ての無駄な国策研究でない、効率の高い太陽光電池開発を目指した地道な研究への国の助成事業が必要であると結んでいる。

 しかし特に評者の注目を引いたのは、「温暖化の CO2 原因説にだまされるな」の項である。気象学者や地質学者の中には、〈地球の歴史の中では、長い周期で温暖化と寒冷化が繰り返されている。古気象学の研究結果では、11〜16 世紀の小氷河期の後ほぼ直線的温度上昇が続いている。これに対して大気中の CO2 の濃度が指数関数的に急増したのは 1945 年以降であって、地球の温度上昇と CO2 濃度の増加の間に相関を求める事はできない。しかし報道機関が、氷河の後退、永久凍土の減少、北極海の海氷の減少などをセンセーショナルにとりあげ、地球温暖化による大災害が目前に迫っていると騒ぎ立て、科学的知識の無い一般人だけでなく、環境団体や IPCC と共にノーベル賞を貰ったゴア元米国副大統領までも巻き込んで、宇宙線や地球磁気の影響も含め古気象学的知見を考える科学者を異端者として人類の敵呼ばわりしている〉と嘆く人たちがいる。「地球温暖化CO2 原因説」を絶対的真理として疑わず、エセ・エコ製品の開発や排出炭酸ガスの固形化・地下埋蔵などの大事業への投資活動などが起これば、科学者の社会的責任が問われる事は確実であろう。

 

山岸秀夫(編集委員)