2009.9.3
 
Books (環境と健康Vol.22 No. 3より)

 

田村正勝 編著

ボランティア論−共生の理念と実践


ミネルヴァ書房 ¥ 2,800 +税
2009 年 3 月 10 日発行 ISBN978-4-623-05333-9

 

 

 本書は、早稲田大学大学院社会科学研究科の実践を伴った研究演習の成果として誕生した「共生の社会哲学」である。本書によると、題名に出ている外来語の「ボランティア」はラテン語の「欲する(volo)」、「ボランタス(voluntas)」に由来するもので、常識的な「自発、熱意、好意、親切」の他にも「意思、願望、要求、決意」を表すとのことである。一般に生活協同組合も福祉 団体も各種 NGO(非政府団体)や NPO(非営利団体)もボランティア団体とみなされているので、「ボランティア」の原語には哲学的なもっと重い意味があることを初めて知った。

 本書の序章は総論としてのボランティア論で始まり、8 章からなる各論が続く。総論では、近代社会のプラス面として、(1)合理的思考による精神的抑圧からの解放、(2)工業化による貧困からの解放、(3)民主化による政治的社会的抑圧からの解放の3 点を挙げると同時に、それぞれ対応して生じたマイナス面として、(1)経済主義(過剰な物質的豊かさ)による人間の精神と文化の破壊、(2)市場原理と経済グローバリズムによる自然環境の破壊と格差社会の招来、(3)地域共同体の破壊(過疎・過密社会、少子高齢化社会)を挙げている。しかもこれらのマイナス面はプラス面を払拭して余りある緊急の大問題となってきている。ここで行政による公助、個人による自助の限界を補うものとして、人間の連帯(友愛)に基づく「しなやかな助け合い」と「したたかな強さ」を持つ共生、共助(ボランティア)を取り上げ、「住民参画型民主主義社会」実現への提言を行っている。ここでのボランティア活動は、(1)物と心のゆとりを目指すものと(2)公正な社会を目指すものとに大別されている。その基底には、心と身体と環境(自然、社会)を重視した、総合的かつ全人的存在としての人間観がある。著者はゲーテの晩年の思想を表す 5 つのギリシャ語、「ダイモーン」(生きようとする霊的な力)、「偶然」、「必然」、「エロース」(運命愛)、「希望」を取り上げて、〈人は「ダイモーン」で思い通り生きようとするが、「偶然」に翻弄された運命を「必然」として「エロース」と「希望」につなげる所に「ボランティア」の本質がある〉と解説している。

 続く各論の 1、2 章では「ボランティア」の基本的な知識と歴史が述べられていて、注目を引いたのは、古代ギリシャ市民世界での「博愛」、ユダヤ・キリスト教のヘブライ世界での神の使命としての「慈善」、仏教の共苦と解脱に発する「慈悲」である。地域共同体の伝統に根ざした「慈悲」の中に「ボランティア」と相通じるものを評者は感じた。3 章では中国ハンセン病村での国際 NGO としての活動を取り上げ、4 章ではボランティア活動に必要な心のつながりに直感と共感が取り上げられ、5 〜 7 章では、まちづくりボランティア・防犯ボランティアの可能性と限界、地域コミュニティーの再生と持続可能性に向けたボランティアが取り上げられている。8 章では近代的自然観や経済主義思考への反省としての環境ボランティアが取り上げられている。

 本誌も 22 巻 1 〜 3 号のサロン談義では「資本主義の行方」を取り上げ、2 号のトピックスでは「縮小社会へ」の提言を取り上げている。自由主義と民主主義を基盤とした経済体制としての資本主義が「足るを知る縮小社会」の中に活路を見出すとしても、人間の連帯感に基づく共生、共助の「ボランティア」は必須のものと考えるが如何であろうか。

 

山岸秀夫(編集委員)