Books (環境と健康Vol.22
No. 3より)
|
|
柴田 博 著 ここがおかしい日本人の栄養の常識 |
|
技術評論社 ¥ 1,580 +税 |
|
本書は新版ではないが、著者が東京都老人総合研究所副所長を勤めた循環器疾患の専門医であり、その見解に迫力を感じたので Books に取り上げることにした。本号 Books 「寿命論」で、種に固有の「プログラム寿命」と栄養、防災、医療によって延長される「人為寿命」に触れた。本書は一見当今の日本人の飽食と関連した生活習慣病の話しに見えるが、実は現在の日本人の食生活や栄養が、かつて短命であった頃の日本の食生活に逆戻りしつつあることを危倶したものである。以下にその要点を列挙する。 (1)太っているほど早死にするとの通説は日本人全体が肥満傾向にあるという思い込みから来ている。(2)コレステロールが成人病と短命の元凶であるとの通説があるが、むしろコレステロールの低い人の方にもガン、脳卒中、自殺などが多い。(3)日本人は脂肪の取り過ぎであると言われるが、日本人の脂肪摂取量は欧米諸国の半分で、これ以下では感染症の跋扈や脳血管疾患のリスクも増える。(4)砂糖をとると切れやすい子になるとの俗説があるが、むしろブドウ糖はセロトニンの元となる必須アミノ酸が脳に達するために必要であり、うつ病の予防として再評価されている。(5)動脈硬化の危険因子である糖尿病が激増していると言われるが、病院に患者が増えたのは診断基準の変更によるものである。(6)日本人の摂取エネルギーは多すぎると言われるが、これは動物実験の結果を短絡させたものであり、現在ヒトに関してカロリー制限を主張する根拠はない。(7)良い食品、悪い食品と黒白に区分することは不可能であり、長い風雪に耐え生き残った食品に悪いものは一つもないが、一つで完璧な食品もない。全体の総エネルギーと栄養のバランスこそが必要である。この点では茶の間へのテレビ番組が悪影響を及ぼしている。この他にも現在の日本の問題として、給食の無い日の小中学生の栄養不足、美容を優先させる若い女性のカルシウム不足、糖尿病の過剰診断を取り上げている。 最後にかつてコーカサス地方をはじめとした世界三大長寿地域と呼ばれたものは全て統計のトリックによる幻想であり、その結果として粗食が長寿をもたらすとか菜食主義が良いといった迷信を生んだことを指摘している。真の長寿地域は、動物性食品が豊かでかつ食生活が多様であったかつての沖縄であり、ハワイ日系人であり、香港の男性とのことである。 結びに、日本の成人 1 人に理想的な食事の指針として、(1)エネルギーは 1 日 2,000 カロリー程度、(2)動物性タンパク質は全タンパク質の 50 〜 60 %、(3)野菜は 1 日 350 グラム程度、(4)多彩な食材と調理法を挙げている。今後の京都健康フォーラム「人と食と自然」で取り上げ、参考としたいものである。
山岸秀夫(編集委員)
|
|
|
|