2007.12.7
 
Books (環境と健康Vol.20 No. 4より)

 

加藤周一 著

日本文化における時間と空間


岩波書店 ¥2,300 +税
2007 年3 月27 日 発行 ISBN978-4-00-024248-6

 

 

 評者が本書を読んだのは、前号のBooks に紹介した「江戸の遺伝子」を読んで間もなくである。「江戸の遺伝子」で260 年の平和を保ったそのことが、本書によれば逆に日本文化の特色でもあり問題でもあるとのことで、これを是非続いて紹介しておく必要があると感じた。本書を書店の書架で手にしたのは全く違った動機で、著者が1919 年生まれで評者の一寸先輩にあたり、戦争を過ごした私にとって同時代人がどのように日本文化を考えているかに興味をひかれたからである。著者の言う「今=ここ」に生きる日本は、何とか江戸の鎖国を平和裏に生きることができ、また明治になって西洋文化の取り込みに一応の成果を挙げたが、21 世紀の今においてこのままで良いのかと反省させられた。

 始めも終わりもない無限の時間の表現は、二種類が考えられる。その一つは、「一定の方向を持つ直線で、時間はその直線上を無限の過去から無限の未来へ向かって流れる。もう一つは、円周上を無限に循環する時間で、円周上の一点における出来事は、特定の時間(周期)が経てば繰り返される(p.19)。

 これを基本に古代ギリシャから古代中国、仏教における時間、「古事記」の時間と検討をすすめ、日本文化における三つの時間に到着する。すなわち、始めなく終わりない直線=歴史的時間、始めなく終わりない円周上の循環=日常時間、始めがあり終りがある人生の普遍的時間である(p.36)。第一部第2 章でこれらさまざまな時間を歴史的に検討する。つづいて第3 章で行動様式ということで、日本人の実際の行動様式を検討して、大勢順応の貫徹と内面化をその特質ととらえ、これは正にその日暮らし、先のことは先のこと現在にのみこだわることになったのだろうと結論する(p.129)。これが今に生きるである。

 第2 部では同様の議論と検討を空間について展開する。これは古くは村中心、最近では崩れつつあるとはいえ会社中心で、これは正に「ここ」こそ大事であると言える。最後に悲しいことながら、今の世情をよく言い得ている一文(p.234)を引用してこの紹介を締めくくる。

“地震は起るだろうし、バブル経済ははじけるだろう。明日がどうなろうと、建物の安全基準をごまかして今カネをもうけ、不良債権を積み上げて今商売を盛んにする。もし建物の危険がばれ、不良債権が回収できなくなれば、その時現在で、深く頭を下げ、「世間をお騒がせ」したことを、「誠心誠意」おわびする。要するに未来を考えずに現在の利益をめざして動き、失敗すれば水に流すか、少なくとも流す努力をする。その努力は「誠心誠意」すなわち「心の問題」であり、行為が社会にどういう結果を及ぼしたか(結果責任)よりも、当事者がどういう意図をもって行動したか(意図の善悪)が話の中心になるだろう。”

菅原 努(編集委員)