2007.12.7
 
Books (環境と健康Vol.20 No. 4より)

 

河野泰弘 著

視界良好−先天性全盲の私が生活している世界


北大路書房 ¥1,200+ 税
2007 年6 月6 日発行ISBN978-4-7628-2562-0

 

 

 先日、新聞の書評欄を見ていて、この本を見いだしました。

 我々が企画に参加している京都健康フォーラムの中で、ここ数年は、五感シリーズのテーマを扱っていて、次回(2008 年1 月12 日(土))は「視覚」になっていただけに、生まれつき目の見えない人が、この世界をどう見ているかという疑問を持っていました。

 また、私の父が70 歳過ぎて緑内障が見つかったが、すでに手遅れで最後は全盲になり、もう七年前に89 歳で亡くなりましたが、大変不自由な老後を送っていました。

 私自身、人間ドックで毎年見てもらっていたので、問題は無いと思っていたのですが、弟から、人間ドックでは緑内障は発見できないし、遺伝性もあるから一度調べてもらったらと言われて、そんなことは無いだろうと眼科で調べてもらうと、緑内障という診断でした。眼圧が高いから緑内障になるのではなく、その原因は不明で、特に日本人には眼圧が正常で緑内障になる人が多いのだそうです。自分も父と同じ運命かという恐怖を味わいながら、ただただ、眼圧を下げる目薬を注さして、緑内障の進行を遅くするという治療をしています。それだけに、最初から目が見えない人がどのように、この世界を理解して生活しているのかに、非常に興味を引かれて購入しました。

 筆者は先天性全盲の27 歳の男性です。5 歳頃に点字と平かな・片かなを覚え、7 歳から18 歳まで普通学校で学んでいたそうです。大学では法律学を学び、卒業後も編入学をしてさらに心理学を学んだそうです。19 歳からは一人暮らしを始め、現在も一人暮らしで東京都盲ろう者向け通訳・介助者として登録して、現在は通訳者として活動しているそうです。彼が“見ている(生きている)世界”が書かれています。

 「絵の描き方が分からない」という章に円筒形を描こうとして、四苦八苦した小学生の図工の宿題のことが書かれています。上面と下面が円(有限)だとわかるのですが、胴体の部分に手を触れると裏側まで触ることができるし、周囲を無限に回り続けることができるので、とても大きく感じたこと。また、触れた感じは丸いし、目の見える友人から聞いたように、長方形に見えるという事実とのギャップが記されています。手で触れられない物は(例えばアザラシはどんなに説明を受けても)イメージできないそうですし、夢の中でも目が見えないと描かれています。

 この世を何を通して見ているかというと、聴覚と臭覚と触覚であり、それで料理を作ったり、買い物をしたり、その上、盲ろう者向け通訳者として活動されていると言うことには本当に頭が下がる思いです。

 ただ、一昔前と異なり、パソコンが発達して、スクリーンリーダーという画面読み上げソフトを使って電子メールをやり取りしているそうです。このスクリーンリーダーは、非常に優れもので、インターネットのホームページの内容や操作メニューの項目も読んだり、文章を作る際には、漢字候補を音声で知らせてくれるので、漢字を学習しながら、文章作りができるそうです。また、ピンディスプレイという装置は、読み上げる文章を点字でピンが出たり引っ込んだりするので、手でなぞることによって画面上の情報を点字を通して知ることができるそうです。

 人と話をしているとき、相手がどんなタイプの人なのか感じることができるそうです。声のトーンや話し方でその人の性格は判るそうですし、声から顔の動きを読むことができるそうです。相手が首を上下や左右に少し回転させるだけでも声の質で判るそうで、如何に聴覚が鋭いかに驚かせられます。

 五体満足な我々が、筆者の「障害というのは一つの個性だと捉えています。日常生活で不便を感じることはたしかにあります。でも、自分の障害を欠点だと感じたことはありません。」という文章にドキッとし、新聞紙上を騒がしている五体満足な若者たちの行動を見るにつけ、筆者のこころの豊かさと、このような筆者を育てたご両親や学校の友人たちが如何に素晴らしいかが想像されました。

内海博司(編集委員)