Editorial (環境と健康Vol.20
No. 4より)
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菅原 努 * |
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イノベーションという言葉は、普通技術革新と訳され私もそんな意味で、一昨年何人かの仲間の協力を得て作った NPO 法人「さきがけ技術振興会」の英文名にも Innovative Technology という言葉を使いました。しかし、実際にその技術の普及を図ろうとすると、他の技術との組み合わせだけでなく、制度的な制約が問題になってきました。最近の例では農水省が推進したアレルギー予防米の開発が、できたものが食品か薬品かで、厚生労働省から制度的に異論がでて、ついに計画を白紙に戻し、薬の開発として再検討することになったと報じられています。先ずこれを岩元睦夫の論説1)から紹介します。これは折角の革新的技術が既存の制度に阻まれて日の目を見られない例といえるでしょう。
もともと、イノベーションを技術革新と思っていたのは、私の間違いで2)、坂村 健によれば3)、イノベーションは、プロダクト(製品)・イノベーション、プロセス(方式・運用)・イノベーション、ソーシャル(制度・構造)・イノベーションの 3 つに大別され、日本はプロダクトとプロセスの両イノベーションについては世界に冠たるものですが、最後のソーシャル・イノベーションの力が弱いということです。これは正に上に述べたアレルギー予防米を巡って顕在化した問題です。 坂村氏は他にも面白い例を挙げています。それを彼は
といっています。具体的な例として、
をあげています。 調べてみると、わが国でも安倍首相(当時)の肝いりで高市早苗・イノベーション担当相(当時)の私的諮問機関として 2006 年 10 月にイノベーション 25 戦略会議というのが作られ 2007 年 5 月に最終報告書を提出し、それが閣議決定されていることがわかりました。 これが、安倍首相(当時)がよくいっていたイノベーションの意味だったのです。開設の趣旨には次のように書かれています。
閣議決定の内容は、その詳細は長文であるので省略するとして、座長の黒川 清氏はそのまとめとして次の点を強調しています6)。それは政府の趣意書が技術革新に重点を置いているのに対して、これをもっと広く根本的にとらえていることです。
またこれを受けて日本学術会議の金沢一郎会長もそのコメントで;
と言っています7)。 私はこれを知って、大変心強く思いましたが、現実は初めに紹介したスギ花粉症緩和米の例にも見られるように、既存の壁は依然として立ちはだかっているようです。私たちが進めているがん治療におけるハイパーサーミア(温熱療法)も、どうやら根本は同じところにあることが見えてきました。大腸癌になった私の友人は、手術をした外科医の指示で、転移を抑えるべく化学療法を続けていました。同じことならそれにハイパーサーミアを併用しては、という私たちの意見は全く聞き入れられませんでした。少なくとも制がん剤の効果を高めることは期待できたと思うのですが。しかし、現実には化学療法を続けたにも関わらず転移はますます広がり、主治医はやっとハイパーサーミアを受けることを許可してくれました。私は何もハイパーサーミアがすべてと言っているのではありません。患者のためにあらゆる可能性を考えてみる、そのときには自分の専門の枠を外すくらいのことはするべきではないでしょうか。古い壁はなかなか破れそうにありません。でも上に紹介した広く捉えたイノベーションの考えを広めることで、新しい展開を期待したいと思います。 イノベーションは何も技術だけのことではないのです。技術そのものの取り上げ方はもとより、学問の枠も、社会の仕組みもすべて革新することによって、初めて新しい希望の持てる世界が開けてくるのではないでしょうか。自分の反省も込めて皆さんにこのことを強く訴えたいと思います。
文 献 1)岩元睦夫:食品機能研究:気になる最近の話題から。ILSI(日本国際生命科学協会誌)No.90(2007)pp. 1-6. 2)広辞苑によれば:(1)刷新、新機軸、(2)生産技術の革新だけでなく、新商品の導入、新市場・新資源の開拓、新しい経営組織の実施などを含む概念。シュペンターが用いた。日本では技術革新という狭い意味で用いることが多い。 3)坂村 健著:ユビキタスとは何か 岩波新書(2007)p.158. 4)同上 p.164 5)同上 p.155 6)黒川 清:イノベーション 25 戦略会議最終とりまとめにあたって 7)金沢一郎:日本学術会議会長のコメント
*(財)慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団理事長、
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