2007.3.15
 
Books (環境と健康Vol.20 No. 1より)

伏木 亨、山極寿一 編著

いま食べることを問う


農山漁村文化協会「人間選書」265
 ¥1,800(税込み) 2006年11月30日発行
 ISBN4-540-06267-0

 

 

 本書は栄養学者と人類学者の2人の著者が、第1章で「食の現代的課題」について問題を提起し、食物を単なるエネルギー源としてでなく、それぞれ「食を介した人間関係」と「味を共有する社会性」(食の共同性)が強調されている。筆者はこれまでチンパンジー(類人猿)からヒトを区別する「人間らしさ」として「言語の使用」を考えていたが、ここで、火を用いて共同で調理加工して味わう「食の共同性」を新たに追加しなければならない。人間は性を隠し、食を開放することによって、高栄養をとり大脳を発達させ、類人猿とは全く別の道を進むことになった。食の味も素材や調理法など地方色を反映して、極めて多様性に富むものであった筈である。ところが現在、食の保存、運搬技術の向上で「共食」は「孤食(個食)」となり、本来の味の「多様性」もファッション化して「均一化」されようとしている。

 味覚によって惹きおこされる味の快、不快感は心の内的次元の問題であるので、客観性を重視する自然科学的手法だけでは追及できない。そこで、第2章では10名のゲストを選んで、それぞれ「食べること」をめぐっての主体的見解を披露してもらった後、2人の著者を交えて鼎談を行って、文理の智慧を交わしている。第3章では、2人の著者の討論形式で、「他者との共存の場としての新しい食の共同性」と「人間関係を繋ぐかすがいとしての食の役割」の重要性を次世代に向けて発信している。企画者である佐藤友美子さんのあとがき「食を大事にすることは、いのちを慈しむことに通じる」を結論として受けとめたい。

 本書の鼎談の各論は多様なので個別の紹介は省略するが、問題の所在を著者の主張に収斂させる「いのちの科学を語る」シリーズの筆者らのインタビュー形式とは対照的な独創性に満ちた誌上フォーラムである。

山岸秀夫(編集委員)