2006.6.12
 
Books (環境と健康Vol.19 No. 2より)

三井 誠著 
人類進化の700万年 


講談社現代新書 1805
2005年9月20日第1刷発行 
¥760+税 ISBN4-06-149805-3

 

 

 人類は700万年前にチンパンジーから分かれて進化してきた。一体どうして700万年前と分かるのでしょうか。そしてそのときもう今のような大きな脳を持ち、直立二足歩行をしていたのでしょうか。いやそうではありません。先ず700万年前に直立二足歩行をはじまたのです。では何故?これが第一章「人類のあけぼの」です。

 それから250万年前頃から、次第に脳が大きくなり石器などを使うようになります。でもそのなかの多くは途中で滅んでしまったようです。20世紀の中ごろまでは、猿人、原人、旧人、新人というように人類誕生から一直線に進化が進んできたと考えられていたのですが、今ではそうではなく多くの異なる猿人、多くの異なる原人などが出て、その一部が現在の人類に繋がっていると考えられています。これが第2章「人間らしさへの道」で、250万年前から20万年前までです。その間に、ジャワ原人や北京原人らは滅んでいったと考えられます。そうしてとうとう直立二足歩行で、頭脳の大きい、口腔咽頭が発達した現在の人類が誕生したのが20−15万年前と考えられます。しかし、これからさらに長い時間を経て75000年前ごろからようやく抽象的な思考を始めるようになったということです。これが第3章「人類進化の最終章」です。

 この後、第4章「日本列島の人類史」があり、その後、第5章「年代測定とは」でいろいろの測定法を紹介し、第6章「遺伝子から探る」ではそれまでの化石を中心とする方法に、最新の遺伝子を加えた新しい進化研究の可能性を論じています。最後に終章「科学も人間の営み」として。化石の贋造や人種差別がアフリカの人類発祥を認めるのに大きな妨げになっていた例を挙げて、決め手の少ないこの分野では特に多くの意見が対立し、いかにも人間くささが感じられることを示しています。

 私たちは現在読みやすく、面白く、主張のはっきりとした著者の話を中心に「いのちの科学を語る」シリーズの発行を進めていますが、本誌はまたこれとは少し違った形での実に分かり易く面白い科学の解説書です。「人類進化の700万年の歴史」を新聞の科学記者が専門家を訪ね歩き、文献を調べてまとめたものです。人類学では最近も石器の捏造で問題がありましたが、なかなか普通の科学の様に実験が出来ないので、断片的な資料から理論が組み立てられるのが普通です。したがって同じ化石などにもとづく解釈もいくつかありえます。それを解説しながら、どれかに決めることの難しさも一緒に説明しています。その点は著者が研究者であればどうしても自分の主張が強く出ると思うのですが、それをここでは第三者的に何故難しいかを説明していて納得できます。これは上に紹介したどの章にも当てはまります。

 この分野の進歩は21世紀に入ってから、次々と発見があったようで、2000年以後2005年の中頃までの新しい文献が沢山紹介されています。私はこの分野の素人として、兼ねて関心を持っていた人類の進化の歴史についてこれを読んで、問題点も含めて成る程と納得した次第です。その意味で是非広く読まれることを勧めます。

菅原 努(編集委員)