2006.3.18
 
Books (環境と健康Vol.19 No. 1より)

川崎 謙著
神と自然の科学史


講談社選書メチエ 345 ¥1,500E
2005年11月10日 第一刷発行
ISBN4-06-258345-3

 

 

 日本のやよろずの神々と、西欧の創造主としての神とは違うことは誰でも知っているでしょう。でもそれを単に多神教と一神教と捉えていないでしょうか。実は世界は創造主なる者によってある計画の元に創られた、その真実に近づくべく科学が発達してきたのが西欧なのです。このことを背景に“本書は、「自分が[自然]を見ている見方」と、「その見方は[西欧人が Nature を見る見方]とどのように違うのか」”ということに興味のある人々を読者として想定しています。これらの違いを見つけるためには、まず「二つの見方は同じではない」という立場に立つ必要があります。その上でこれらを比べれば、私たちの「自然」の見方に気付くと同時に、西欧人の Nature を見る見方も知ることができます。「西欧人が Nature を見る見方」に従って、西欧自然科学は育まれ発展してきましたから、この比較は西欧自然科学をより深く理解することでもあります(2、3頁)。”という書き出しで始まります。ようするに本来の西欧自然科学は我々日本人が考えている自然科学とは違うものであるということを言葉の問題と自然を見る見方の違いの両面から解き明かしてくれます。

 自然という言葉が、日本語でどのように使われてきたかを調べて、それがNatureとは全く違ったものであることを示します。私達はその違いに目を瞑って見ないようにしてきたのだということです。しかし、もっと大切なのは物の見方の違いです。その違いの代表的な例が西欧自然科学のモットーである “Study Nature、Not Books” の日本語訳です。この標語は理科、科学教育の世界では大変有名です。この言葉の訳が日本では“自然に学べ”で定着しているようです。日本語のニュアンスではそれで正解のように受け取れますが、英語としてはそれでは間違いで“自然を学べ”でなければなりません。この違いに本質的な差がみられるというのが本書の主張です。我々日本人は自然を見て事実を積み上げればそこに自ずから真実が見えてくると思っています。しかし、西欧では自然の中に隠された神の意思ともいうべきもの(本書ではそれを Logos と言っています)を探ることが目標なのです。日本人はみな科学では How を求めるが Why については関心がないと思っていますが、実は西欧自然科学では How を通じて Why を追求しているのだというのです。

 皆さんの興味を少しでも引ければと思って下手な説明をしましたが、内容は遥かに深いものがあります。是非ご自分で読み解いてください。

菅原 努(編集委員)