Books (環境と健康Vol.19
No. 1より)
|
|
高橋伸彰 著 |
|
ミネルヴァ書房 ¥2,500+税 |
|
最近の国勢調査の結果、予想より早い人口減少に慌てた政府は対策を講じ始めたが、本書は人口減少が問題ではなく、少子高齢化への人口構造の傾斜こそが問題であるとする。 一般に65歳以上を高齢者とするが、著者は比較的健康で就業率も大な65〜75歳の前期高齢者と肉体的にも精神的にも自立が難しくなる75歳以上の後期高齢者に分けると、2010年代後半には後期高齢者の方が多くなることを指摘している。また少子化の要因として一般に晩婚化と未婚化を挙げ、女性の社会進出に責任を転嫁しているが、本当は子育てや介護などで女性の働く自由を制約する社会環境にあるとする。そこでは様々な公的年金、医療保険、救貧、雇用保険、介護保険などの福祉制度が中途半端にされている。例えば介護の問題をとっても、本来リハビリにはスキンシップによる自助努力が有効なのに、安易に機器を導入して自動化をはかって却って寝たきり老人を増大させている介護ビジネスの現状がある。 そこでデンマーク出身の社会学者、エスピン・アンデルセンによって分類された3つの福祉レジームを取り上げている。1つはアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの市場重視の自由主義的福祉国家、2つ目は南欧、ドイツ、日本などの家族依存の保守主義的福祉国家、3つ目はスウェーデンなど北欧諸国の社会民主主義的福祉国家であるが、いずれも問題を抱えている。第1の型では所得に応じた福祉のために第4世界と呼ばれる新たな貧困社会を生みだし社会不安の原因となる。第3の型では平等な福祉の権利を保障するが税の高負担が限界に達している。第2の型では家族がサービスを提供できなくなった時に初めて公的介入が行なわれるが、それまでの家族の負担が家族のきずなを弱めている。しかも1人の女性が生涯の間に何人の子供を産むかの合計特殊出生率の一番低いのはこの型である。 そこで次のような全ての福祉社会への5つの提言が紹介されている。(1)女性雇用の拡大 (2)貧困から子供を救う (3)定年制の廃止 (4)余暇と仕事の組み合わせ (5)平等概念の再検討などである。(3)と(4)は性と同様年齢(老い)に対する差別をなくしライフサイクルを柔軟化することであり、(5)では例え貧困層であっても高い生活に移動できる機会があれば、その国は平等社会といえるとしている。 最後に著者は単なる思い付きの政策導入でこれまでの政策をいたずらに否定するのでなく、新しい構想力と実行力を伴った長期的な展望のある福祉改革を求めている。おそらくもっとライフサイクルを柔軟化して年齢差別をなくし、高齢者にも能力に応じた多様な活動の機会を与え、高齢者の支援だけでなく子供の保育や若者の職業教育に対する支援にも目を向けた福祉政策を導入して、少子高齢化の逆ピラミッドの矛盾を緩和しながら、緩やかにより小型のピラミッド型人口構造へと移行するのが理想であろう。 山岸秀夫(編集委員)
|
|
|
|