(環境と健康Vol.19 No. 2より) |
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菅原 努 |
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前書き まえに本誌の18巻5号で「がん温熱療法はさきがけ技術である」として、新しい医学としてのサーモトロンによるがん温熱療法を中心に解説しました。今回はそれを我が国でのそこに至るまでの経過を装置メーカーの数や種類、学会員数の変遷、アンケートの結果 など、公開された資料をもとに展望してみようと思います。これはがん治療に限らず、新しい考え方に基づく技術が発展していくときに典型的な形ではないかと思います。何か新 しい考えがでると、わっと人々はそれに群がります。しかしことはそう簡単にはいきませ ん。次々と挫折しては戦線から離脱するものが現われます。そうして最後に本物だけが残 り、そこから新しい流れが始まるのです。その実態をがん温熱療法の発展のなかから読み 取れたらと思います。 はじめに ハイパーサーミアはどのように医療に利用され、どのような患者に効果が出ているとか 等、関係者一同日々努力されているわけですが、今回は少し違った立場からハイパーサーミアの歴史を分析してみたいと思います。 わが国のハイパーサーミアのあゆみ まず最初の大きな変化は、1993年に「日本ハイパーサーミア学会」が設立10周年に なった時に、「わが国のハイパーサーミア研究のあゆみ(医療科学社発行)」を学会が編集 して10年間の経過をわかるようにまとめたものに見られます。そのときの発展の姿を描 いたものが図1で、1981年からいろいろな装置が作られ次々と実用化され多くのメーカーのよって数々の装置を作られそれが普及していった形を読み取ることが出来ます。こ の図1は、アンケートに答えた119施設145台で、Thermotron-RF8とかThermox- 500とか、多くのメーカーが同じようなキャパシティーの装置を製造していたことを示し ています。
マイクロ波のメーカーは外国製ではスウェーデン、米国製のものもあり、そして今でも存続しているBSDという会社が少しマイクロ波の違うモノを製造していました。RFでは サーモックスと、サーモトロンが一番で、その他にはEndoradiothermという器械があり、これは腔内加温で食道の中へ電極を入れて行うという少し変わった装置です。 このように当時多くのメーカーがありましたが、日本においての大きな特徴は、この学会に図2で見られるように臨床各科を含む多くの分野の人が参加したということです。この点が今 後外国との比較を考える時に特に問題になるところで、アメリカやヨーロッパなど外国で はほとんどが放射線科だけでやっていますが、日本では放射線科は全体からみてそんなに 多くはなく、その当時では日本全体で1,230人の学会員がいて、その中で放射線科は3 分の1位で、その他に外科、内科や他の科があります。この点が外国とは大きく相違しています。
図1 加温装置設置の年次推移(1991年12月末現在)
図2 学会員の専門別%(1991−93)
その後どのように学会員数の変化が見られたかというと、図3に見られるように、最初は会員数が増えましたが1,200人を越えてくると、1993〜1994年から次第に減少し て現在に至っております。
図4 がん温熱治療装置の変遷
図5 第1回から第9回国際会議の出席者数の推移
最近の状況 では、最近どんな装置が実際に使用されているかを調べました。(表2)、最近2年間のハイパーサーミア学会の一般演題の臨床の部の中で使用されている装置は、2004年は、 サーモトロンだけ、あとは全身加温とか組織内加温とか新しい開発した試験的な装置です。 2005年ではオリンパスでは腔内加温、食道加温、オムロンの古い機械しかなく、あとは全身加温のほかに中国の超音波の装置がありますが、その他は全部サーモトロンです。したがって最近実際に使用されているのはほとんどがサーモトロンだけになっているのでは ないかと考えられます。 表2 日本ハイパーサーミア学会 一般演題:臨床の部
図6 併用療法別の患者数と平均加温回数
装置の機種では、唯一サーモトロンだけが残っていますが、それが最近でも増加しています(図7)。初めの二つは、私が「ハイパーサーミア」という本を初版・第2版を出した時に、山本ビニターに問い合わせて書いた台数で、初めが20数台であったのが次に50台になりました。次の1996年はすべての「がん」に保険適用が決まった年で、山本ビニ ターがハイパーサーミア情報誌[サーモトロンUP DATE]の「号外」を出しました。その「号外」に記載してある全国の施設名のサーモトロンは70台近くあったということです。 その内訳は当初は国公立の病院がすごい勢いで増加しました。ところが最近は減少傾向に あります。この一番新しいデータは、私どもが発信している百万遍ネットのホームページ に設置している病院名を掲載しているものを数えたものです。この場合には一部の病院か ら、勝手に名前を掲載されては困ると言われ、今は個々の設置病院に事前にお願いをして 許可を得て掲載しています。例えば、テリトリーでいうと地元の京大病院は、ホームペー ジへの掲載は止めてくれとの依頼があり載せておりません。それらの理由でここに記載し た設置数は減少していますが、実数は正確には分りませんが、これより多いでしょう。少 なくとも現在活発に使用されているのが約60台位あると考えられます。しかしここで注 目すべきことは、この中で国公立の病院は減少してきていますが、逆に私立の病院は急激 に増加してきており、特にそのなかで200床以下の病院・診療所が全体の86%を占めて いるということです。いろいろな理由が考えられますが、今回は現状を見ていただくとい うことで詳細の説明は控えたいと思います。
図7 Thermotron RF-8 の国内設置病院数の変遷
次に、「日本ハイパーサーミア学会」の会員人数が減少しているが、どの科の人数が減少したかを調べてみました(図8)。このグラフは最盛期の1991〜1993年の3カ年の平均に対し、最近3カ年の平均をとり、それが最盛期の何%ぐらいになるかを各科で比較してみたものです。主に減少しているのは泌尿器科と脳外科、特に残念なのは生物系が減 少していること、今後の様々なメカニズムを調査するうえでも生物系の人材を育てて行か なければならないと思います。
図8 専門別会員数の変化率
討論と結論 まとめてみますと、医療器メーカーは9社あり、当初次々と参入してきたが1994年頃から減少が始まり2001年以降1社のみとなった。それに対応して学会員数も減少しましたが、メーカーが撤退しなければならなかった理由は何なのか、あるいは逆にこういう装置を使用された先生がたは一体どのように理解されているのかを解明していく必要が あります。
謝辞:本稿作成に当たり資料収集、講演のテープ起しなどについてNPO法人さきがけ技術振興会高島修一事務局長にご協力いただきました。
(第14回高温度療法臨床研究会 平成18年3月4日(土)アピオ大阪における講演「温 熱療法の医療社会学的研究序説」に加筆訂正を加えたものである。)
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