特別企画 | |||||||||||
“要素非還元主義に基づく健康効果指標の研究(略称 健康指標)” (終了しました) 本年1月から開始された本プロジェクトの例会も、2000年の新年には第10回の節目を迎えることになり、下記のような内容で記念講演会と祝賀の懇親会を企画しました。講演会では、本プロジェクトの1つの意図であります“要素非還元主義”の対象となる複雑系として、卵細胞の成熟から個体形成までをとり上げます。なおこれまでの例会講演をとりまとめた資料集の作成を予定しています。祝賀会では本プロジェクトを援助していただいているスポンサー始め関係者の方々へ感謝を呈すると共に、今後の発展のためにご激励とご助言を頂きたく思います。多数の方々のご参加をお待ちしております。 記
以下に講演会についての簡単な解説を致します。 増井禎夫先生は、京大理学部動物学教室で高谷博先生からシュペーマン流の発生生物学を学ばれ、1955年、新設間もない甲南大学理学部生物学教室に高谷先生と共に赴任されました。その後13年在籍されましたが、その間併設高校の生物学や文系教養生物学の講義を担当され、過重な授業負担と研究時間の配分に大変苦労されました。シュペーマンは蛙の胚発生を誘導するオーガナイザー(形成体)の発見で有名な学者ですが、増井さんはシュペーマンの細胞の移植片手術を用いて、蛙の卵母細胞が減数分裂を経て卵細胞に成熟する機構を解析され、その成果 は在職11年後に留学されたエール大学で結実し、1971年に蛙の卵細胞の分裂を促進するMPF(卵成熟促進因子)と卵形生後の受精なしの不用意な細胞分裂を抑制するCSF(細胞分裂抑制因子)の存在をJournal of Experimental Zoology, 177: 129-146に発表されました。その後数年以内にMPFの存在は、米国のL. Hartwellによって出芽酵母で、英国のP. Nurseによって分裂酵母でも確認され、今やMPF機能はプロテインカイネースCDKを活性化するサイクリンBタンパクに担われており、その遺伝子もCDC2(CDC28)と同定されるにいたりました。思えば今をさかのぼる30数年前、厳しい研究環境の中で、高価な器具も薬品も使わず、高価な培養装置の要らない蛙の卵を使って、自らの手に頼る細胞手術によってなされた発見が、昨今の膨大な研究費を投じて成された数々の分子生物学的業績によって裏づけられたところに、学問のオリジナリティーの真髄を感じます。増井さんの発見されたもう1つの因子CSFの遺伝子はRcc1として同定されていますが、卵成熟という複雑系を紐解くもう一つの鍵となるものでしょう。“卵成熟の生物学”という演題にご期待下さい。なおMPFの関わる細胞周期の研究業績に対して、1998年アメリカ医学界最高のアルバート・ラスカー賞が増井さんたちに授与されました。この賞の受賞者の中から、近年のノーベル生理・医学賞受賞者が選ばれているほどの評価の高い賞です. 角田幸雄先生は、以上のような卵細胞質の能力を用いて、体細胞遺伝子ゲノムの全能性を発揮させて、クローン牛まで発生させるのに成功されました。その成果 は、Science, 282: 2095-2098 (1998)に発表されています。細胞工学、発生工学の最近の成果 と共に、シュペーマンのオーガナイザーに発した近代発生生物学の集大成をここから学ぶことが出来るに相違ありません。“クローン牛から学ぶもの”という演題に期待するところです。 健康指標プロジェクト主査 山岸秀夫
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