2005.2.16
 

 京都健康フォーラム2004講演要旨

平成17年3月5日(土) 13:00〜17:20
京大会館210号室

テーマ:香りとこころ・香りとからだ

森林の香りに魅せられて
〜セドロールという奇異なる香りの作用について〜


矢田 幸博
(花王株式会社ヘルスケア第2研究所 グループリーダー)
 




 古来より森林、特に杉や檜などの針葉樹林の木材から揮散している香りには、気分を落ち着かせる効果や抗菌効果があることが知られていましたが、現在では、それらの香りの成分としてヒノキチオールやαピネンなど言われる物質が見出されています。一方、近年、積極的に森林を訪れ、リラックスしようとする森林浴が注目を集めるようになったことから、森林の香りや森林浴の効能について科学的な評価や医薬学分野での利用が検討されています。この間、我々もストレスや快適性研究の一環として針葉樹林の木材から抽出したオイルから香り成分をはじめとする種々の成分を分離し、その鎮静効果や覚醒効果について調べてきました。その中で「セドロール」という香り成分は、極めて香りが弱く(無臭〜超微香性:日本人の3人に一人は、香りとして認知できなかった)、嗜好性も極めて低いにも関わらず、この香りを嗅ぐことで呼吸数の減少、血圧の低下さらには、脳波のα波の増加が観察されたことから、この香り成分が自律神経系に作用し、鎮静作用を有することが明らかになりました。したがって、このような鎮静作用を利用することで生体リズムへの作用、特に睡眠状態を改善することができる可能性が考えられました。

 そこで、不眠意識を持った女性方にご協力いただき睡眠への効果を調べました。その結果、就寝時にセドロールを嗅ぐことでリラックスでき、有意に睡眠が改善することが分かりました。この間、特に興味深かったのは、セドロールの香りがまったく判らない人たちでも判る人たちと同様にセドロールを嗅ぐと心身が鎮静すること、さらには、睡眠実験の際は、全員がセドロールの香りを認知できない低濃度で実施したのにもかかわらず、明らかな睡眠改善効果が認められたことでした。

 これまで香りの鎮静作用や覚醒作用には、まず、その香りが認知できること、次に自分にとって好ましいか否か(嗜好性が強いこと)が重要であり、もしその成分が認知できても嫌いであれば、逆効果であり、また、同じ成分でもその認知や嗜好性は、年齢、性別、人種などにより大きく異なることが以前より知られています。

 一方、セドロールは、認知率は、低く、嗜好性も弱いのにどうして鎮静効果や睡眠改善効果が発現するのか、またこのようなセドロールの効果が海外の人たちに対しても有効であるのかは、興味が持たれるところです。本講演では、セドロールの鎮静作用の発見と合わせて「作用メカニズムに関する最新の研究成果」と「セドロールの鎮静作用に関する4カ国(ノルウェー、タイ、米国および日本)調査」についてもお話させていただきたいと思います。

 

 

 
 

 

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