健康指標アゴラ(ニュースと意見発表の広場) |
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書評―システム生物学に関連して 大野 乾(すすむ)著 未完 先祖物語 遺伝子と人類誕生の謎 |
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山岸秀夫
(財)体質研究会 健康指標プロジェクト主査 |
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本書は本年1月13日他界された大野乾氏の遺稿をまとめたものであるが,既刊の“大いなる仮説(1991年4月10日発行)”,“続大いなる仮説(1996年8月10日発行)”と合わせて大野進化論3部作の最終を飾るものである。氏は1970年に“Evolution by gene duplication. Springer-Verlag, New York, 1970”,“翻訳版 オオノ・ススム著,山岸秀夫・梁永弘訳,遺伝子重複による進化,岩波書店,1977年初版,1999年再版”を世に出され,“遺伝子重複が遺伝子に創造の場を与えた”との新しい概念を提起され分子進化の中立説を補完された。その根拠となったものは多年にわたる氏の膨大な染色体観察データであった。1991年の“大いなる仮説”は,その後集積されたDNA塩基配列データを駆使してはじめて日本語で書き下ろされたもので,遺伝子の進化の原理は一創造百盗作であるとの持論を展開された。1996年の“続大いなる仮説”では,ゲノムプロジェクトの進展を背景にこの仮説の証拠固めがなされている。100種類の文章さえ見つかればマヤ言語の解読が可能であるとする考古学者の自信に対して,それ以上のタンパクのアミノ酸配列文章がありながらその解読にあたふたしているシステム生物学者の姿を比肩している。氏は自ら重複DNA言語から全タンパクに共通 する原理と法則を導き,無数のタンパクから推定3,000種程度の原型を抽出し,そのいくつかを提示している。しかもこれらの原型は1995年にS. Gouldによって提起された“カンブリア紀の進化大爆発”に重要な役割を演じた大遺伝子に見事に対応している。遺作となった本書では,いよいよ人類の誕生の謎に迫っている。先祖の数の巨大数の謎から出発し、ヒトとチンパンジーはウマとロバよりも近縁であるという事実から,ヒトをヒトたらしめたごく小数の未知の突然変異の存在を予言している。そこで時間的に拘束される分子進化と代を経るごとに加速度的に促進される文字文化の進化を対照させている。そして生物進化の原理をダーウィンの競争(自然淘汰)に求めず、地球全体をガイア(漂う一隻の宇宙船)と考え,船上の全生物の共存共栄に求めている。 最後に酒豪であり葉巻をこよなく愛した大喫煙家の氏を襲った肺がんに対し、毅然として闘病し、“最後のサムライ”として従容として逝った闘病記が奥様の翠(みどり)さんによってしたためられている。謹んで先生の御冥福をお祈りする。 (環境と健康 Vol.13 No.6 より転載)
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