健康指標アゴラ(ニュースと意見発表の広場) |
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書評―要素非還元主義に関連して 村瀬雅俊著 歴史としての生命 自己・非自己循環理論の構築 |
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山岸秀夫
(財)体質研究会 健康指標プロジェクト主査 |
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この本の著者は, もともと薬学の出身で, 生物科学のバックグラウンドの上に数学を学び, 現在京都大学基礎物理学研究所非平衡物理学部門に属し, メタ生物学という学問の創造に挑戦している多才な異色の人材である。“はじめに”で, メタ生物学とは生命現象の網羅的な記載にとどまらず, 体系的記述を目指す学問であると述べている。本書はこの広領域を対象に5年にわたり書きためた50冊を超える文献ノートを元に完成された力作である。 2部に分かれ, 第1部 生物と生物学における完全なる不完全性, 第2部 自己・非自己循環理論の提唱, からなる。第1部では, ダーウィンの“種の起源”だけでなく, 異端視されてきたラマルクの“動物哲学”や今西錦司の“生物の世界”もとりあげ, メンデルの“遺伝法則”とマクリントックの“動く遺伝子”を対等に評価して, いろいろな話題を展開し, 対象である生物とその記述である生物学の“完全に見える形の中の不完全性”についての具体例を示している。第2部の理論は外部をもとりこんで変容していく開放系と理解した。この中で遺伝子中心主義に代表される要素還元論に対して要素過程還元論を提唱し, “関係の科学”と“過程の科学”の相補的発展を指向している。 現在, 本誌vol.12 , no.1 Editorialで紹介されているように“要素非還元主義に基づく健康効果指標の研究”プロジェクトが菅原努先生を代表として進められている。このプロジェクトの目指すところと本書の指向しているところには, 共通点が見出される。私見では, 科学は原因と結果のHowを扱うものであってWhyに対する答えは用意していないと思う。単一要素であれ, 単一過程であれ, Howの因果関係が明らかになれば健康効果を評価する指標が見出されるのではなかろうか。いづれにせよ, 本書は情報過多の時代にあって, それぞれの情報を今一度自ら検証する場を与えてくれる。 (環境と健康Vol.13 No.3より転載)
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