2002.12.05
 

 平成14年健康指標プロジェクト講演会要旨

第36回(12月21日(土) 14:00〜17:00、京大会館)
人間の体温は何度まで上がる
−ヒト最高体温の再検索−

小坂 光男
(中京大学大学院体育学研究科)
 


【目的】
 超高温(低温)環境条件でのヒトの致死温度(深部温度)や生存可能の超高体温(42℃〜46.5℃)の限界を文献検索し、細胞・分子から個体に亘る温度感受性・熱耐性(暑熱防御)、体温調節や高体温抑制性機序(negative feed back system)、免疫学的高温防御を実例に従って考察する。

【方法】
 1. 資料検索法・過去における生物の体験した高温負荷やその時点の深部体温を比較データとした。 2. 最近20年間(1982〜2002)の超高体温(℃)および発症・疾患名をコンピューターで文献検索した。 3. 耐熱性機序は、がん治療のハイパーサーミア研究者らの研究成績を基にした。

【結果】
 A)総じて哺乳類の生存体温域の幅は小さく、高体温動物でも42℃を超える種は少ない。ヒトでも42℃を超える例は稀で、これは高体温や発熱自体が体温上昇を抑制するnegative feed back systemを保持するためである。実験成績から発熱や高体温自体が免疫系Mφなどの細胞群の働きを介して、自動的に発熱抑制作用を示すことは細胞の高温・高熱に対する防御に一役を担っている。
 B)ヒトの最高体温は42℃を超えることは稀で、今回は、ギネスブックを検証する意味でヒトの最高体温を検索したところ、1982〜2002の約20年間に記録報告されたヒトの超高体温は、46.5℃の症例を除けば、殆どの報告は42℃を上限としている。この理由の一つには、蛋白質や脂質の熱特性が42℃を上限として変性や細胞の膜透過性に異常を生じ、二つには、既述の如く、熱(42℃)自体が免疫系の反応を介してnegative feed back actionによって自動的に発熱、高温を抑制する故である。
 C)ギネスブックに記録されている46.5℃について言及すれば、この稀有な症例は正に驚くべき超高体温であり、更にこの体験者は解熱後、何ら後遺症をも訴えなかったと記されている点にあり、以下、オリジナル論文の内容を簡単に紹介すると、1980年夏は、米国では記録破りの猛暑で、その日の午後8時30分には気温90F・湿度62%、その日の最高気温は99Fで湿度44%を記録した。この52歳の男性は、熱射病の診断で体温42℃かつ昏睡状態で入院、医療団は緊急に気管挿管および酸素吸入開始、次いで、体表にice bag(氷嚢)、胃腔の挿入管内部を氷水にて灌流開始、これらの処理25分で、体温は急上昇し、46.5℃を記録した。この時点で医療団は、処置方法に問題があると気付き、その後八方に手を尽くして超高体温(46.5℃)に対応したが、一進一退を繰り返した。24日後にほぼ平熱状態まで回復し、正に奇跡的に後遺症を残さない稀有な症例となった。

【考察】
 A)超高体温時の対応策・温熱生理学の常識からは著者らの私見ながら46.5℃の超高体温は人体表面を氷浸けし、体腔内(胃腔)を氷水冷却した結果、逆に強力な熱産生を誘起と皮膚からの熱放散のための熱交換が不可能となるが故の体温急上昇で、この時点での処理として不適当である。然らば如何に対応すべきか?一般には体表面に冷水(氷水)を注いでしかる後に布にて拭き取り、冷風を送って全身皮膚からの熱放散を計り、更に冷水を注いで拭き取り、冷風にて放熱を計るが如き比較的簡単な処理を体温測定と平行して少なくとも一昼夜、または数日間注意深く繰り返せばよい。
 B)細胞の耐熱性機序について・熱ショック・温熱ストレスが細胞に刺激として作用すると、細胞内にHSP70、HSP90、HSP47、P53といった新しい蛋白質の発現が促進され、特にHSP70とP53は相互絡み合って、細胞を熱障害から防御している。詳しくは、熱ストレスによって誘導されたP53の耐熱性蛋白質がswitch盤を経てWAF1分子を誘起し、がん細胞の増殖を制御してHSPの分子シャペロン作用と協力して細胞を熱障害から二重防御機構によって保護しているためと考えられる。

【文献】
 小坂光男、李 丁範、山内正毅:高温(高体温、温熱療法) 疲労と休養の科学vol. 15(1), 3-9, 2000

 

 
 

 

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