2002.10.7
 

 平成14年健康指標プロジェクト講演会要旨

第34回(10月19日(土) 14:00〜17:00、京大会館)
ストレス、そのとき遺伝子と脳は

仙波恵美子
(和歌山県立医科大学第二解剖)
 


 我々にとって最も大きなストレスは、伴侶をなくす、最愛の人を失う、心の拠り所をなくすことであろう。人間関係のトラブル、過酷な競争における敗北、いじめや虐待も大きなストレスである。心的外傷と言ってもいい。共通の症状として、不眠(過覚醒)、食欲低下、うつ状態、免疫能の低下、高血圧・不整脈などの循環器系の症状、海馬の障害に伴う記憶・学習の低下などが見られる。また、同じような状況に置かれても、人によりその反応は様々である。ある人々はPTSDとして様々な症状が持続する。最近の日本人の自殺率の増加は、我々が過酷なストレス社会に生きていることを物語っている。ストレスにより、「こころ」すなわち脳がどのような影響を受けるかということを明らかにするため、様々なストレスモデル動物における検討がなされている。それらのモデルのうち、今回は拘束、疼痛、炎症、絶食などを取り上げて、脳における変化について話題を提供したい。

 我々は、情動ストレスのモデルとされている拘束ストレス、疼痛、炎症などの身体的ストレスのモデルにおいて、脳のどこがどのように賦活されるかということを、c-fosなどのimmediate early genesの発現を指標として検討してきた。ストレスは脳の覚醒レベルを上げるとともに、情動反応を促進し、視床下部の摂食調節機構にも影響を与える。また交感神経系を賦活し、循環器をはじめ種々の臓器に影響を与える。また、慢性的なストレス負荷により、海馬でのBDNFの産生が低下し、記憶・学習など海馬機能の障害が生じる。一方、空腹や絶食によっても血中のglucocorticoidレベルが上昇することから、これらもストレッサーと考えられている。我々は48時間の絶食により、弓状核のみならず室傍核においてもMAP kinaseが活性化することを確認している。しかし、摂食量を制限することにより、寿命は延び、海馬のBDNFは増加するという。ストレッサーの種類により、脳でのプロセッシング、脳に対する影響は異なるであろう。その詳細なメカニズムの検討は、我々がストレスと上手に付き合い、健康を守っていく上で重要な課題である。

 

 
 

 

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