2002.6.3
 

 平成14年健康指標プロジェクト講演会要旨

第32回(6月15日(土) 14:00〜17:00、京大会館)
生活習慣病学の提唱

奥田 拓道
(熊本県立大学環境共生学部、愛媛大学名誉教授)
 


 肥満は脂肪細胞に異常に多くの脂肪が蓄積した病態である。この脂肪はその表面にペリリピンやレシチンの単層膜をもつ構造体として存在し、油滴と呼ばれている。1960年代から始まったカテコールアミンによる脂肪分解の促進機序に関する研究は、この油滴を見落としたことによって誤ったアプローチをすることになった。β3-受容体-G-蛋白-アデニルシクラーゼ-サイクリックAMP-A-キナーゼの活性化-リパーゼのリン酸化という一連のシグナルトランスダクションは脂肪細胞における脂肪分解とは無関係なことが明らかにされたのである(Okuda H. et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun. 274, 631-634, 2000.)。ホルモンによる脂肪分解の促進はリパーゼと油滴の結合促進によって起る現象であり、これはホルモンによる油滴界面の変化によってもたらされるが、この際、リパーゼやペリリピンのリン酸化は関与していない。肥満に伴い、油滴の拡大が起るが、この時、レシチンの単層膜に破れ目が生じる。この破れ目にリパーゼが結合することで、ホルモンに依存しない脂肪分解(basal lipolysis)が促進する。Basal lipolysisによって生じた脂肪酸が高脂血症、II型糖尿病など生活習慣病の原因の一部になる。このbasal lipolysisの促進を阻止するためには、やせて、油滴を縮小することでレシチンの破れ目を無くす以外に方法はない。

 油滴を縮小するためには、脂肪合成を低下させることが必要である。脂肪細胞の脂肪合成は血液中のグルコースに由来するグルコース経路とカイロミクロンなどのリポタンパク経路があるが、前者はインスリンと脂肪酸合成のフィードバック阻害の二重のコントロールがかかっている。しかし、リポタンパクに由来する脂肪酸からの脂肪合成はホルモンや代謝面でのコントロールを受けないので、肥満予防にとってはリポタンパク経路の方がより重要である。このリポタンパク経路の脂肪合成を食事を通じて低下させるには食事に含まれる脂肪の吸収を阻害したり、吸収時間を遅らせばよい。ウーロン茶や日本茶に含まれるサポニンは食事に含まれる脂肪の膵リパーゼによる消化を阻止することを通じて、カイロミクロンの低下、高脂肪食投与によって誘導される肥満を予防することが明らかになった。このように、脂肪細胞の代謝から出発し、肥満予防の機能物質に至る一連の研究を私なりの生活習慣病学として提唱することにしたい。

 

 
 

 

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