2002.6.10
 

 平成14年健康指標プロジェクト講演会要旨

第32回(6月15日(土) 14:00〜17:00、京大会館)
脳機能からみた肥満症治療のストラテジー

坂田 利家
(中村学園大学大学院 栄養科学研究科)
 



食欲のしくみと肥満症の発症
 野生のライオンが縞馬を倒すのは空腹感を満たすためなので、お腹が満ちると餌には見向きもしなくなる。食調節系の神経回路網(ハードウエア)に血中の満腹物質(液性情報、ソフトウェア)が受容されることによって、食行動は調節されているからである。このように、食欲は物質で調節されている(食欲の代謝調節系)。ところが、ヒトの食欲は考えたり、想像したり、悲しんだり、といったことで強い影響を受ける(食欲の認知調節系)。ヒトではむしろ、この認知調節系が主力を占めるように変わってきたと言ってよい。これこそがまさに肥満症発症の素地なのである。

肥満症患者に特徴的な食行動とその効果的な治療
 難治性肥満症患者の血中満腹物質量と満腹度を測ってみると、満腹物質量は健常者と変わらないのに、満腹の度合いがまったくランダムで一定の傾向が認められない。肥満症患者はお腹が空いているのか、いっぱいなのか、よくわからない状態にいることがわかる。この病態を逆に利用し、感覚系経由で空の満腹信号や空腹情報を高次脳の認知調節系へ入力できれば、本来の満腹感や空腹感を取り戻すことができる。

今後の治療への展望
 「食の破壊」の浸食は都市化された社会ほど激化している。このような環境下では食調節本来の機能は発揮され難くなる。その意味では、薬物としてのbrain foodsを如何に実用化するか、この課題は肥満症の治療的展望にとって欠かせない。環境制御系としてのヒスタミン神経系は遺伝制御系のob遺伝子と密に連関し、エネルギーの恒常性維持に向けてその機能を発現している。講演では患者の食行動特性をどのように評価し、治療に生かすか。次いで、治療技法のなかに、感覚系を介した食行動の修復をどのように取り込み、組み立てていくか。こういった治療上の最重要課題を中心に述べ、brain foodsとしてのL-ヒスチジンの役割にも振れてみたい。

 

 
 

 

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