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動物個体内外の様々な刺激は生体ホメオスタンスの変調を招き、ストレスを惹起する。ストレスは怪我や病気などの物理的・化学的刺激によっても、新奇環境や天敵への曝露といった心理的刺激によってもおこり、恐怖や攻撃性などの感情表出やACTH分泌・交感神経系緊張等の神経・神経内分泌反応などのストレス反応をひきおこす。ストレスは侵害環境における防衛反応と考えられることから、これら反応が然るべく駆動され適度に調節されることは生物の生存にとって重要と考えられる。然しながら、これらがどのような脳内メカニズムによって調節されているか、また、物理化学的刺激によるストレスと心理的ストレスが同様のメカニズムで制御されているかは必ずしも明かでない。ストレスのうち、我々が日常遭遇するのは疾病であり、感染や炎症などは様々なストレス反応をひきおこす。これらには発熱、ACTH放出、倦怠感、行動抑制、食欲不振、睡眠亢進などがあり、まとめて病的行動(sickness
behavior) と呼ばれている。これらの症状のうちいくつかは、アスピリン様薬物で軽減されることから、我々はストレス反応におけるプロスタグランジン(PG)の役割を検討した。PGはPGD2、PGE2、PGF2α、PGI2、トロンボキサン(TX)
A2などより成るが、体内では8種類の受容体に結合しその作用を発揮する。これらは、PGD受容体(DP)、4種類の PGE受容体(EP1、EP2、EP3、EP4)、PGF受容体(FP)、PGI受容体(IP)、TXA受容体(TP)である。我々はこれら8種類の受容体のそれぞれをクローニングし、各々を欠損したノックアウトマウスを作成して個々の受容体の機能を解析してきた。今回4種のEP受容体欠損マウスを用い、これらマウスに、細菌内毒素(lipopolysaccharide,
LPS)を注入することにより、感染ストレスに対する反応を、また新奇環境や未知個体にさらすことにより環境や社会ストレスに対する反応を解析し、PGE2のストレス反応における役割を検討した。その結果、PGE2がEP3受容体を介してLPSによる発熱反応に関与すること、EP1とEP3の両受容体を介する経路で視床下部傍室核
(paraventricular nucleus, PVN) の活性化をおこしACTH放出を惹起することを見出した。また、EP1受容体経路はLPS刺激後の扁桃体中心核
(Central nucleus of Amygdala, CeA) の活性化や行動抑制も伝達していることがわかった。更に、このようなLPSに代表される病的ストレスにおける働きに加えて、EP1受容体経路は脳内ドパミン経路を調節することにより、環境や社会ストレス下での動物の行動を調節していること、この経路に欠陥があるとストレスに対して暴発的な攻撃性が誘発されることが明らかになった。
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