1)緒言:
病原微生物の侵入に対する感染防御機構は、感染後数時間以内に働くあらかじめ備わった自然免疫、感染数時間後に誘導される早期誘導免疫と感染数日後から働く適応免疫に分類される。自然免疫を担う細胞性因子として、上皮系細胞やマクロファージなどがあげられる。上皮細胞は、微生物の侵入を防ぐ機械的バリアーとしてのみならず、サイトカインの産生によって、早期誘導免疫を誘導する。マクロファージはToll-like
recepter(TLR)をはじめ多数の表面レセプターによって、微生物を認識し、迅速に貪食、排除を行うとともに炎症性サイトカインを産生する。早期誘導免疫にはナチュラルキラー(NK)細胞、γδ型T細胞レセプター(TCR)T細胞、NK陽性T(NKT)細胞、上皮間Tリンパ球、CD5陽性B1細胞などが関与する。それら自身は持続する免疫にはつながらず、自然免疫と適応免疫との橋渡し的役割を担うと考えられる。適応免疫は抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球よって誘導されるがクローン増殖によってエフェクター細胞に分化する必要があるために機能するまでに数日かかる。メモリーT、B細胞への変化によって持続性の感染防御機構を担うことできる点が特徴である。適応免疫の中心的役割を担うヘルパーTリンパ球(Th細胞)はそのサイトカイン産生プロファイルによってIFN-g産生Th1、IL-4産生Th2、TGF−b産生Th3細胞さらにIL-10産生Tr1細胞に細分類される。Th0細胞がどのタイプのTh細胞に分化するかは、抗原エピトープの種類、量、MHCハプロタイプ、抗原提示細胞のアクセサリー分子
さらに周囲に存在するサイトカインの種類によって決定される。早期誘導免疫で産生されるサイトカインは初期の感染防御を行うのみならず、適応免疫のタイプを決定する重要な役割を担う。今回、細菌に対する早期感染防御機構について、我々の研究成果を紹介したい。
2)TLRー2:
マクロファージの細菌認識レセプターのひとつとしてTLRファミリーがあげられる。TLR-4はLPSシグナル伝達に重要であり、TLR-2はLPS以外にもグラム陽性細菌のタイコ酸や結核菌のペプチドグリカンに結合する。我々はマウスのTLR-2がマクロファージのみならず、γδ型T細胞、腸管上皮間T細胞、NKT細胞にも発現していることを見い出した。これらの細胞はTCR非依存性にLPSに反応してIFN-gを産生した。サルモネラ感染防御においてこれら早期誘導免疫を担う細胞群はTCRのみならず、TLR-2を介するシグナルで活性化されると考えられる。
3)IL-15:
IL-15はIL-2とIL-2Rb /gcをレセプターとして共有するサイトカインでマクロファ−ジから産生され、NK, gd T細胞
NKT細胞、 上皮系Tリンパ球の分化、増殖因子として働く。我々が作成したIL-15過剰発現トランスジェニックマウスでは、サルモネラやリステリアに対して強い抵抗性を示した。このマウスではNK細胞とメモリ−CD8T細胞の増加が著しく、さらに細菌抗原特異的CD4Th1細胞の産生増加が認められた。抗CD8抗体投与によるCD8T細胞の消去はIL-15トランスジェニックマウスの感染抵抗性を減弱させることから、CD8T細胞が早期感染免疫を担っていることが明らかとなった。感染後増加してくるCD8T細胞はポリクローナルであり、抗原特異性は認められず、in
vitroのIL-15またはIL-2の刺激でIFN-gを産生した。メモリーCD8T細胞は内因性のIL-15やIL-2によってby stander
に活性化されると考えられる。
4)結論:
細菌の早期感染防御を担う細胞群としてNK,NKT,gdT細胞に加えてメモリ−タイプCD8T細胞が考えられる。これらの細胞群はサルモネラ感染防御機構において、自然免疫と適応免疫のギャップを埋めるのみならず、IFN-gなどを介してサルモネラ特異的CD4Th1細胞の誘導に重要な役割を担っていると考えられる。またNKレセプターやTCRに加えてTLRファミリーもこれら細胞群の細菌認識に関与していると推定される。
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