平成12年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第12回 (4月22日、14時〜17時、京大会館212)
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サイトカインの多面的生理活性の分子基盤
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私たちの体を形作っている1コ1コの細胞は、互いにコミュニケーションを保つことによって、発生における形態形成や、発生後における体の恒常性の維持、あるいは免疫系や神経系のような高次機能を発揮している。このような細胞間のコミュニケーション(相互作用)には、接着分子を介する細胞と細胞の直接の相互作用や、液性因子を介する間接的な相互作用が存在する。サイトカインは、後者の細胞間相互作用に関与する重要な生理活性因子の一群の総称である。 免疫は、私たちの体を病原微生物から守るために必須であり、エイズ(後天性免疫不全症候群)の例からもわかるように、免疫なくしては、私たちはこの世で生きていくことはできない。この重要な免疫応答においても、リンパ球という細胞同士の細胞間相互作用が必須であり、インターロイキン6(IL-6)をはじめとする種々のサイトカインは、癌や病原微生物などに対する免疫応答に重要な役割を果たしている。一方、サイトカインシステムの異常は、免疫応答をみだし、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患や、アトピー性皮膚炎のようなアレルギー性疾患を誘導することになる。さらに最近の研究により、サイトカインは単に免疫応答だけでなく、神経系や内分泌系、あるいは発生においても重要な役割を果たしていることが明らかとなり、その作用機構を解明することが急務となっている。すなわち、サイトカインの作用機構を分子のレベルで明らかにすれば、人間が自由にサイトカインの作用をコントロールすることも可能になり、従って、癌やリウマチなどの疾患のコントロールも可能になる。本セミナーでは、IL-6を例にサイトカインの多面的生理活性の分子基盤を最近の我々の研究成果を中心に論じてみたい。 サイトカインは種々の作用を発揮する。例えばIL-6を例にとると、IL-6はBリンパ球に作用し、抗体産生細胞への分化を誘導する。又、PC12細胞に作用し、神経細胞への分化を誘導したり、M1細胞に作用し、増殖を抑制するとともに、マクロファージへの分化を誘導する。一方、IL-6は、ミエローマ(多発性骨髄腫)の強力な増殖因子であり、癌の発症にも密接な関係を有する。このようにIL-6は、増殖因子として作用する反面、増殖抑制または分化因子として作用し、標的細胞が異なれば全く別の作用を発揮する。IL-6は種々の細胞に発現しているIL-6特異的受容体を介して細胞に作用するにもかかわらずである。では、同一受容体を介して、単一のサイトカイン、IL-6が作用するにもかかわらず、なぜ、このように全く異なる生物活性が発揮されるのであろうか? この点に関しては、現在のところ明確な答えはない。IL-6などのサイトカインによってSTATやSHP-2/Gab/PI3-K/MAPキナーゼなどの細胞内シグナル伝達路が活性化される。我々の研究によって、IL-6によるM1細胞のマクロファージへの分化誘導と細胞増殖の抑制には、例えばSTAT3の活性化が必須であることが明らかにされた。この研究によって、注目すべき点が明らかになった。すなわち、IL-6のようなサイトカインは、増殖を誘導する細胞には、増殖シグナルを、一方、増殖を抑制したり、分化を誘導する細胞には、増殖抑制シグナルを誘導すると考えられていた。しかるに事実は、単純ではないことが明らかになった。すなわち、IL-6はM1細胞に、同一の受容体を介して、増殖抑制シグナルと、増殖シグナルという相反するシグナルを同時に誘導しているという驚くべきことが明らかになった。結果としてIL-6がM1に増殖抑制を誘導するのは、この2つの相反するシグナルの強さの相違、あるいはバランスの結果である〔シグナルオーケストレーション〕。事実、STAT3の活性化を抑制してやると、IL-6はM1細胞に増殖を誘導することが明らかになった。同様の現象はPC12における神経細胞への分化誘導においても明らかにされた。すなわち、IL-6によるPC12における神経細胞への分化には、SHP-2/MAPキナーゼのシグナル伝達路が必須であるが、逆にSTAT3は、神経細胞への分化を抑制する。ここでもIL-6は同時に神経細胞の分化誘導と、それを抑制するシグナル伝達路を活性化していることが明らかになった。このように、単一のサイトカイン受容体から相反するシグナルが同時に誘導される例は、最近TNF受容体でも明らかにされている。すなわち、TNFは細胞死のシグナルと、細胞死を抑制するシグナルを同時に誘導しているのである。このような事実に基づいてオーケストラモデルについて論じたい。さらに、サイトカインシグナルにおけるSTAT3, Pim, c-Myc, Gabがどのように細胞の増殖・分化・生存シグナルに関与しているのか? サイトカイン受容体を介する個々のシグナルが生体内で実際どのような役割を担っているのか? このような疑問に対して、最近の我々のノッアウトマウスやノックインマウスを用いた研究成果をまじえて論じたい。
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