平成12年健康指標プロジェクト講演会要旨 |
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第11回 (2月19日、14時〜17時、京大会館102)
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再生医療とバイオ人工臓器
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井上 一知
(京都大学 再生医科学研究所) |
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再生医療とは、再生医学研究の成果に基づいて開発された、あるいは今後新たに開発されるであろう医療の事を言うが、その内用は多岐にわたり、確固たる定義づけや分類がなされているわけではない。再生医療の開発をめざす再生医学そのものが、20世紀の末に彗星の如く登場してきた新しい学問でもある。 再生医学とは“機能障害、機能欠損状態や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用することによりその機能再生をはかる、あるいはその再構築を目指す医学”である。修復できないような重篤な臓器機能障害、機能不全や、慢性的な臓器機能欠損疾患に対しては、現状では臓器移植か人工臓器による治療以外には有効な方法はない。しかしながら臓器移植には常に拒絶反応、免疫抑制剤や深刻なドナー不足の問題が付随する。一方人工臓器にも、生体機能代替性、長期使用時の耐久性や生体適合性等にまつわる多くの未解決の問題が山積みする。再生医学の目指すところは、臓器移植や人工臓器に不随する様々の問題を一挙に解決するところにある。 再生医療には、再生医学という新しい学問の研究成果に基づく医療であるが、大きくは、移植を伴わない医療と移植を伴う医療とに分類し得る。前者としては、細胞成長因子や細胞増殖因子等を用いて、in vivoで幹細胞や組織前駆細胞に対する再生誘導や再生増殖をもくろむ治療法がある。患部に細胞外マトリックスを供給することにより、組織や器官の再生を促進させる治療法もその1つである。肝臓の機能再生を目指す体外循環型のバイオ人工肝臓もこの範疇に含まれる。一方、後者には、細胞移植療法や、遺伝子導入を施行した細胞を用いた治療法(遺伝子治療)、やバイオ人工臓器による移植治療等がある。高分子でできた免疫隔離膜の中へ細胞を封入して作成されたカプセルは、一般にバイオ人工臓器(ハイブリッド型人工臓器)と呼ばれるが、このバイオ人工臓器を用いる治療法をカプセル化療法という。免疫隔離膜は、内部の細胞を免疫担当細胞や抗体、補体等の攻撃から防禦する役割を果たす。バイオ人工臓器の代表としてバイオ人工膵がある。 その免疫隔離膜は、膵島細胞の生存に必要な酸素、栄養素のみならず、糖やインスリンをも自由に透過させるが、免疫拒絶の原因となる種々の攻撃因子はまったく透過させないという特質を有する。たとえば、ブタの膵島細胞等の異種の膵島細胞を封入して作製したバイオ人工膵を移植しても、免疫抑制剤を使用することなく、その機能を十分に発揮させることが可能になる。今回は主としてバイオ人工膵開発の現況について概説したい。 21世紀には再生医療がどのように変貌を遂げ、どのように普及していくのか、その予測はほぼ不可能に近い。いずれにせよ、再生医療が21世紀の医療における中心的な役割を担っていくことになるであろうということは、想像に難くない。その中でもバイオ人工臓器による移植治療は、現状で最も臨床応用に近いものの1つであり、再生医療の中でも重要な位置を占めることになるであろう。
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