2003.1.1

 

2003年1月のトピックス

ハイパーサーミアをもっと身近に

菅原 努


 

新年明けましておめでとうございます。

 私が「貧乏人のサイクロトロン」の名のもとに、がん治療の向上をめざして総合研究を始めてもう28年目を迎えることになりました。そのとき取り上げた低酸素細胞増感剤など多くのテーマのなかで、ハイパーサーミア(がん温熱療法)だけが我が国で健康保険に採用されるまでになりました。しかし、未だなかなかがん治療医に広く認知されるようにはなっていません。この数年インターネットを活用してホームページにハイパーサーミアの周知をはかり、また幾つかの病院での積極的な取り組みが始まりましたが、仲間の近藤元治京都府立医大名誉教授の言葉ではありませんが、「他の医者に見離された患者さんが藁をも掴む気持で頼ってくる」というのが現状です。勿論このような患者さんへの対応も大切ですが、もっと早くがん治療を始めるときの一つの選択肢として取り上げるべきではないでしょうか。今年はそのためのより積極的な活動を展開したいと思います。

 自分のこのような方策を考えるために、最近私へのメイルによく書かれている「貴方にはもうこれ以上できる事はありませんから、自宅ですきにするか緩和病棟へでも」と言われたという患者さんが他ではどのように取り扱われているのかを知りたいと思って、近刊のがん治療に熱心に取り組んでいる医師の本を読んでみました。それはがん化学療法に熱心に取り組んでいて、クロノテラピー(抗癌剤の夜間治療)を行なっている平岩正樹さんの「がんで死ぬのはもったいない」(講談社現代新書1611、2002年6月29日発行)と手術から中国医療さらにホリステイック医療を実践している帯津良一さんの「あきらめないガン治療―ホリステイック医療の実践」(PHP新書226、2002年11月29日発行)の二冊です。何れでも、余命三ヶ月だとか、もう治療法はありませんから緩和病棟へとか、言う希望を奪い取る言葉の氾濫に反対しています。そこで現在の標準的ながん治療の行き詰まりの打破を前者は欧米の化学療法に、後者はホリステイック医療に求められたようです。前者は殊に過激で、欧米で認められて我が国で未だ認められていない制癌剤を使えるように患者が政府に働きかけることまで示唆しています。しかし二人に共通していて私も同感なのは、がんは一つづつ違うので一人一人に合った治療が必要だということです。

 さて問題は、このがん治療に熱心な二人の医師が二人ともハイパーサーミアのことを全くご存知ないことです。ことに平岩さんは常に新しい制癌剤の情報を欧米に求めておられるようです。帯津さんも中国医療やヨーロッパのホメオパシーに目を向けられたようです。どうやら欧米ことにアメリカで認められていないハイパーサーミアはお目にとまってないようです。ハイパーサーミアは欧米と競争して日本も参加して研究開発をしてきました。そして日本だけが成功しているのです。もうこの辺で欧米一辺倒は止めて欲しいものです。また基本的に、今の欧米の化学療法の開発の仕方は、何れ行きづまるであろうことを私はこの欄で主張してきました。その理由が平岩さんも主張しておられるがんの個別性であり、気にしておられる副作用でもあるのです。此の点では、帯津さんは違った方向へ進まれているようですが、そこには温熱療法もあるのだと言うことに気付いて欲しいものです。

 平岩さんの本を読めば彼が患者さんを前にして制癌剤の選択に苦労しておられるのがよく分かります。それならば、ここでそれに温熱を併用したらということをどうして考えないのだろうか、と疑問に思うのです。「患者よ、がんと闘うな」の近藤 誠氏とは文中大いに反論しておられます。私はそんなことはしませんが、ただその患者さんに一寸温熱を併用してみませんか、と言いたいのです。

 それでもお二人ががん患者さんと向き合って、熱心に取り組んでおられる姿には何十年も前に臨床を諦めた老基礎医学者として心から敬意を表します。そこで是非一度ハイパーサーミアを考えてくださることを患者さんに代ってお願いする次第です。それは多分ハイパーサーミアの普及にとって大きなはずみになるでしょう。