世界の温熱科学の研究者とハイパーサーミア(がんの温熱治療)の臨床医らが集まって現状を報告する門田基金国際フォーラム2004「温熱ストレスの健康への応用−共通認識を踏まえた提言」(財団法人慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団主催、兵庫県国際交流協会共催、毎日新聞社後援)が15日から18日にかけて、兵庫県東浦町の県立淡路夢舞台国際会議場で開かれた。
日本、米国、ドイツ、イタリア、オランダなど9カ国、約100人が出席。菅原努・同財団理事長(京大名誉教授)の基調講演で始まり、各国の臨床医や研究者らが、がん治療最前線の臨床報告や基礎研究を発表した。各国の報告とともに、肺がんの治療に効果をあげている産業医科大(福岡)、岡村一心堂病院(岡山)、群馬大医学部(群馬)、多摩南部地域病院(東京)、藍野病院、西出病院(ともに大阪)の報告も注目を集めた。
近藤元治・藍野病院院長(京都府立医大名誉教授)は今後の課題として、成功事例の発表を重ね、外科手術、放射線治療、化学治療に続く4番目の選択肢として認知されるように努める。▽加温装置を改善し普及させる▽健康保険がより適切に適用されるように働きかける▽がんの早期段階から温熱治療を行うようにする−ことを強調した。がんの高周波ハイパーサーミア装置開発にあたった山本五郎・山本ビニター専務は「ハイパーサーミアの基礎、臨床の発表は素晴らしく、特に臨床面では日本が世界をリードしていると感じた」と語った。
最終日に討論を通じて「生物・臨床各グループのコンセンサス案」がまとめられた。臨床報告を中心に紹介する。
ハイパーサーミアの問い合わせは同フォーラム(06−6771−3004)。
菅原 努
財団法人慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団理事長(京大名誉教授)
基調講演
<副作用少ない理想的治療>
高熱が続いた後で腫瘍が縮小したという事実が注目を集め、がん細胞を温めてやっつけるハイパーサーミアという治療法が科学的に研究されるようになった。がん腫瘍は温度が上昇しても、血管を拡張して血流を増やすことができない。上手に熱を加えてやると、がん細胞だけが死んでいく。これは正常細胞もやられてしまう従来のがん治療から考えると実に理想的だ。
しかし、身体深部における局所加温と温度測定は、物理学では非常に難しい課題とされてきた。われわれは多くの科学者や技術者、臨床医の協力と政府の基金を得て、がんの高周波ハイパーサーミア装置を開発した。今、世界中で最も多く使われており、電極を上手に加減すると、いろいろな部分を温めることが可能になる。
がん治療における温熱療法は、日本では90年に放射線療法と併用で、96年には温熱療法単独、あるいは化学療法併用で、健康保険が適用されるようになった。ただし、医療機関の収益メリットが少ない適用条件となっているため、広く普及するには至っていない。
しかし、現在、ハイパーサーミア治療を行っている病院は、難治性がん患者でいっぱいという状態だ。私は99年に患者さんとその家族のためにハイパーサーミアのホームページ(百万遍ネット)を開設したが、月に1万5000件以上のアクセスがある。
ハイパーサーミアは副作用が少ないので、患者さんが望む限り何度でも治療を繰り返すことができる。ハイパーサーミアの長時間の治療は、医師と患者が会話を交わす良い時間であり、一種の「対話療法」と考える有能な医師も出てきた。繰り返し的確に行えば、難治性がん患者にとって喜びと希望に、すなわち癒やしにつながる。さらに、ハイパーサーミアの予期せぬ効果として免疫力を高めることも確認されている。ウイルス学やスポーツ医学などへの応用も期待される。こうしたハイパーサーミアの新しい考えや視点が広く認められ、受け入れられることを願っている。
(百万遍ネット http://www.taishitsu.or.jp/hyperthermia/
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J・バンデルジー(オランダ)
ダニエルデンホードがんセンター室長
<併用治療で半数が緩和>
オランダでは、ハイパーサーミアと代表的な抗がん剤であるシスプラチンとの併用は、標準的なケアとして受け入れられている。放射線治療後に局所再発した子宮頸がん患者をハイパーサーミアとシスプラチンで治療した結果、50%の客観的反応が得られたことは以前に発表されている。また、アムステルダムで治療中の子宮頸がん患者54人中45%の人に、腫瘍に対する効果が見られた。そのうち4人は病気の兆候なく生存している。つまり、この併用治療は約半数の患者に緩和効果があり、5〜10%は治癒するとさえ言える。
子宮頸がんに限らず、直腸がん、肺がん、すい臓がんに対しても、各国で著しく良い結果が出ている。他の施設でも放射線治療や化学治療との併用治療を導入することを考えるべきだ。
C・W・ソン(米国)
ミネソタ大学医学部放射線研究室長
<低温でも薬の効果加速>
悪性腫瘍の治療にハイパーサーミアを用いることは、実験結果に基づく生物学的根拠がある。腫瘍は優先的に加温され、熱によってがん細胞が死滅し、放射線治療や化学治療への反応が高まることが証明されている。現在、42〜45度で多く行われるようになってきているが、特に深部の腫瘍については、39〜42度の範囲までしか温度が上がらず、がん細胞を直接破壊してダメージを与えるほどの効果は得られないという意見がある。
しかし、低温(40〜42度)で30〜60分加温すると、薬品の効果が表れる速度(反応速度)が加速され、腫瘍細胞の薬の吸収率も増すことが分かっている。おそらく最も好ましい生理的変化は、血管拡張と血流の増大によって腫瘍細胞への酸素供給が増加することだ。局所温熱でも全身温熱でも、熱が免疫反応を高めることも示されている。われわれは最近、低温ハイパーサーミアが酵素を調整してある種の抗がん剤を活性化することを証明した。ハイパーサーミアを臨床活用するにあたって、これまでの生物学的根拠を改めて評価する必要がある。
バレンチナ・オスタペンコ
西出病院温熱治療研究室研究主任
<局所温熱でも免疫増強>
がん治療の第一の目標は長期生存だが、第二の目標はQOLの向上にある。わたしたちの病院では、国際的に認められているアンケートによるQOL評価分析を行っている。
88年12月から04年5月の間に256人のがん患者が、がんの高周波ハイパーサーミア装置を用いた局所温熱治療を受けた。167人がステージ?、57人がステージ?で、進行した原発性肝がん50人、すい臓がん28人、乳がん22人、肺がん43人と他の悪性腫瘍の患者である。ハイパーサーミアは週1、2回、少なくとも8回行うことを目標とした。
例えば、すい臓がんの治療結果を見ると腫瘍の消失または縮小28%、食欲増進・痛み軽減などQOLの改善66%となっている。QOLが改善した患者では、免疫機能を示すNK細胞が著しく活性化している。また、ベータ・エンドルフィン(快適物質)の血清レベルが200倍まで増加するという結果も得られた。全身温熱での免疫増強効果はこれまで言われていたが、局所温熱でも認められた。
レイモンド・ユー(米国)
ノースカロライナ州レックスがんセンター ハイパーサーミア室長
<再発した乳がんに好結果>
がんの高周波ハイパーサーミア装置でハイパーサーミアの効果を確かめるため、乳がん患者の臨床調査を行った。88年から総計58人の患者が調査に参加した。全員、生検で再発が確認されたか、進行した乳がんであると認められた患者である。ハイパーサーミアの治療は、1回42〜44度で45〜50分間、週2回、総計10回、放射線治療期間に行うことを目標にした。
その結果、46人の患者が治療反応分析に適格であった。そのうち43人(93・5%)が腫瘍の完全消失を達成した。腫瘍の残余が疑われる組織の生検を行うために選ばれた7人の患者全員が、病理学的に完全消失していたことが分かった。これは最短3カ月、最長60カ月以上(中間値20カ月)の期間で確認した。
これらの結果から、特筆すべき合併症なしに放射線照射領域に完全反応があること、また通常の放射線治療とハイパーサーミアの併用が、再発した深部乳がんに対して安全で効果的であることが示された。
S・マルタ(イタリア)
ベローナ大学放射線治療科教授
<再発率減少、潰瘍消失も>
進行直腸がん患者で、術前化学治療により病理学的ステージの低下が見られた場合は、そうでないグループより生存率が優位に高かった。ステージが下がることは、再発率を下げ、局所コントロールを改善するのに効果があるようだ。
われわれは98年10月から03年12月にかけて、局所ハイパーサーミアと放射線化学治療の併用で治療した原発性進行直腸がんと再発がん患者124人について検討した。局所ハイパーサーミアは週1回で4週実施した。結果は、患者の56%の事例で病理学的ステージの低下が達成された。術前治療の後、6人の患者は腫瘍が完全消失したことを複数の生検によって証明され、外科手術を拒否した。この患者たちは、転移した一人を除いて、全員再発することなく生存している。
結論として、新しい薬を用いる化学放射線治療を併用した局所ハイパーサーミアは、原発性及び転移性の進行した直腸がんに対して非常に有望な治療法と言える。
近藤 元治
藍野病院院長(京都府立医科大学名誉教授)
<患者のQOL向上目指し>
外科手術や放射線治療、化学療法といった標準的ながん治療を受けながら、不幸にも再発してしまい、他の治療法を探し求めてさまよっている人がたくさんいる。医療体制から見放されてしまったそういう人たちを、私は「さまよえるがん患者」と呼んでいる。
一方で、医師のほとんどは、腫瘍組織の縮小と生存期間の延長を目指して治療をし、必ずしも患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を考慮してはいない。そこで、腫瘍が縮小しなくても、できる限り長く腫瘍を「休眠させる」ことが重要だ、という考え方が出てきた。この「がんの休眠療法」では、「縮小なき延命」ということを考えている。実際、がんの進行を止めることができれば、生存期間はその分長くなる。患者さんにとって最も大切なことは、副作用がないように治療してもらうことだ。
腫瘍の成長を防ぐために、低用量の化学治療や免疫治療、そしてハイパーサーミアなどの方法が考えられる。しかし、この方法は一般の医師に完全に受け入れられているわけではなく、ハイパーサーミアが何かということさえ知らない医師も多い。われわれにとって大切なことは、医師たちを教育すること、そしてどうしたら質の良い生活を送ることができるか、患者さんに心からアドバイスすることだ。
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