1. どんな加温方法がよいか。


 ハイパーサーミア(がん温熱療法)というのは、腫瘍の局所を30〜60分間42~43℃以上に加温する治療法です。放射線や化学療法の効果を高めることが期待され、またそれ自身にも殺細胞効果があります。そこで問題は如何にして腫瘍局所をこの温度に加温するかということです。1980年代に世界中で加温装置の開発競争が行われ、ある意味では今もそれが続いています。そこでの開発方針は、放射線治療のように出来るだけ限局して腫瘍局所だけを加温する局所加温であるべきか、広く腫瘍を含む部位を加温し腫瘍は血流の差で特に高温になることを期待する部位加温でよいとするか、の二つに分かれました。これは殊に身体内部にある腫瘍、深部腫瘍、について技術的に大きな問題になります。アメリカは前者を目標として突き進んで精密複雑な装置を作ってきましたが、最近になってようやく下腹部の腫瘍の加温ができるようになりました。我が国では後者の方向をとり頭蓋内を除く殆どの部位について1985年以来一応の成功を収めています。確かに前者の方が遥かに難しいのでアメリカの現状は止むを得ないと思われますが、本当に放射線のような局所限局性が必要なのかという点に付いて十分な吟味がなされていないと思います。

 具体的にはアメリカでは体のまわりに沢山の発信アンテナを置いてコンピュータ制御で体内の一ケ所に電波を集中して加温しようとしています。極めて高度な技術ですが、人体はさらに複雑で予想通りの反応を示さず、計算通りの結果がなかなか得られないということです。それを超音波でやることも試みられましたが、骨や空気層が邪魔をして特定の部位にしか応用できません。このためアメリカではいまだにハイパーサーミアは実験的治療としてしか認められていないのです。

 我が国では二枚の電極で身体を挟んで高周波を流す方法によるサーモトロンというのが主流です。これでは身体を通してほぼ一様に電流が流れる理屈ですが、腫瘍内では血流が少ないために温度が上がり易くまわりの正常組織との間に温度差が生じます。腫瘍が42℃になった時には正常組織も40℃位になり、全身も少し体温が上がりますが、40℃位の加温は血流を良くし免疫能を高めるなどの効果が観察され、むしろ治療に役立っていると考えられます。体温の上昇も適度であれば快適因子のエンドルフィンの産生を増やすなどが期待されます。

 問題は電極の直ぐ下に位置する皮下脂肪の過度の加温にあるので、皮下脂肪の厚い人ほど加温が難しいと言う事になります。この問題も治療を担当した医師からの提言を検討し、順次改良を加える事で改善され、いまでは殆ど問題にならなくなりました。

 何故アメリカでは日本のようなやり方を検討しないのだろうか、と言うのは私も疑問に思っています。それで5月の「今月のトピックス」にこの問題をとりあげ、アメリカへの呼びかけを試みたのです。

 

 

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