4.1 科学データの収集・検討
4.1.1 高自然放射線地域の健康データ
1)低線量放射線の健康影響関連情報の収集
2)高自然放射線地域住民の健康調査関連資料のまとめ
・中国・高自然放射線地域(HBRA)住民の健康調査:
・インド・高自然放射線地域の健康調査:
・イラン・高自然放射線地域の健康調査:
4.1.2 国内複数地域における環境放射線被ばく
1)温泉地域における環境放射能調査
2)その他の収集データ
4.1.3 安全と安心に関する文献的検討
1)新聞報道に見るリスクの概念
a.新聞に見る「リスク」の使われ方、b.リスク認知と安心と安全
2)福井県美浜原子力発電所事故関連新聞報道について
4.1.4 リスク認知調査のための資料作成とデータベースシステムの詳細設計及び構築
1)リスク認知調査のための資料の作成
2)データベースシステムの詳細設計及び構築
4.1. 科学データの収集 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
4.1.1 高自然放射線地域の健康データの収集・検討と解説書作成 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1)低線量放射線の健康影響関連情報の収集 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
世界の高自然放射線地域住民の健康調査情報、医療分野を含めた放射線作業従事者の被ばく情報、放射線施設の事故に伴う情報などの資料を収集した。収集した資料の内、主なものを、1.高自然放射線地域住民の健康調査関連情報、2.放射線作業従事者の健康調査関連情報、3.放射線事故関連情報、4.環境放射線関連情報 に分類・整理した。一部を表1に示す。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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2)高自然放射線地域住民の健康調査結果の概要 | |||
世界各地には線源の態様の異なる高レベル自然放射線地域(高自然放射線地域 HBRA)が点在するが、そこの住民は出生時から生涯を通して他地域に比べて多くの放射線に休みなく被曝している。放射線の健康への影響を解明するにあたっては低線量といえども、ヒトでの実験は不可能であるのに対して、HBRA住民の健康調査は線量が繰り返し確認できること、事故例のような心理的因子が関与しないことなどの利点があることから、このような集団についての健康調査結果は、低線量放射線の生体影響についての貴重なデータを提供するものである。本調査では収集した世界のHBRA住民の健康調査関連情報について内容を詳しく検討し、(財)体質研究会により実施された調査を中心にHBRA住民の健康調査に関する情報をまとめた。 | |||
・中国・高自然放射線地域(HBRA)住民の健康調査:中国・広東省陽江県にあるHBRAにおける全被ばく年線量は、対照地域(CA)における被ばく線量の3.5倍であった。住民の健康調査は、両地域とも同じ場所に二世代以上住んでいる漢民族系の住民に限定されている。調査の対象を1987年1月1日の調査地区の住民に固定し、居住年数、人口、生活状況、線量測定、がん死亡調査、染色体異常調査などを行った。これらの調査によると、1979〜1998年の間に、HBRAで89,694人、CAで35,385人 計125,079人の対象者を追跡し、12,444人の死亡を確認している。これら、12,444人の死亡者の内、がん死は1,202人(9.7%)、事故・中毒死1,205人(9.7%)で、これを除いた非がん死は10,038人(80.7%)であった。これらの結果を解析した結果、HBRA住民のがん死亡率、非がん死亡率とCAのそれとの間には統計的に有意な差はないと結論された。 染色体研究では、リンパ球に認められる特異的な不安定型染色体異常(二動原体と環状染色体)の頻度が、HBRA住民ではCA住民のそれに比べて大きいことが示された。その一方で、転座と呼ばれる安定型染色体異常は両地域で差は見られないことが示されている。染色体研究の結論としては、1)不安定型異常は高線量地域では年齢と共に増加し、蓄積被ばく線量に比例する。2)安定型異常は年齢による増加は認められるが、放射線による増加は認められない としている。 ・インド・高自然放射線地域の健康調査:インド西海岸、その先端近くアラビア海に面しているインド・ケララ州にあるカルナガパリ地区には1991年の人口調査によると、385,10340万人の人々が住んでおり、彼等は砂粒に含まれるトリウムから出るガンマ放射線にいろいろのレベルで暴露されている。 (財)体質研究会は1999年よりRCCと共同研究を開始し、2001-2002年に、ケララ州カルナガパリ地区のHBRA(約12万人)とCA(約6万人)にコホートを設定した。研究は、移住調査、居住係数調査、線量調査、死亡者数およびがん登録調査からなっている。がん登録は地区の全住民について行われ、年齢調整したがん発生率は、男性では104.2、女性では74.8であった。がんに関する主な知見として、女性における甲状腺がんの高い発生率と、男性で肺がん発生の増加が見られた。また、子宮頚がんは、一般に、その発生率は乳ガンに比較して低率であるにもかかわらず、この集団では乳がんの発生率とほぼ同程度であった。得られた結果は、中国のHBRAでの調査結果とほぼ同様なもので、初期の断面分析では、がんの全体の発生率はHBRAとCAで変わらないことが示された。 ・イラン・高自然放射線地域の健康調査:ラムサールは、カスピ海を見渡す美しい都市である。ラムサール地域の人口は、1996年の調査では64,440人で、町の東南に、Chaparsar、Talesh Mahelleh、およびSadat Mahalehと呼ぶ3つのHBRAがある。ラムサールにはラジウムを含む温泉が多くあり、住民はそれを灌漑用水として使っている。放射線量は温泉堆積物の分布に大きく依存しており、温泉の湧出地より下流方向近辺にスポット状に高線量の地点が点在している。村内で特に放射線量の高かった家では、年間の外部被ばく線量評価は39mGy/yと推定され、これまでに測定したものの中では最高値を示した。この地域では、ほかにも比較的高い線量を示し、このため、ラムサール地方の温泉地帯に住む住民は、中国・広東省およびインド・ケララ州に比べてさらに高い放射線に被曝している。 当地では、1990年以来のがん登録がなされており、その記録より当地域における発がん率を求めることが出来る。その結果によると、HBRAの年齢調整のがん発生率は10万人当り82.0人、対照地域では81.6人で、HBRAとCAの間には違いは認められていない。しかし、HBRAとCAでがん死亡率とがん発生のパターンはちがっていた。 |
3)分かりやすい解説書の作成 | |||
世界の高自然放射線地域住民の健康データおよび関連情報を収集し、これもとに、分かり易く、読みやすい解説書の作成に着手した。内容(目次)は以下のようなものである。 a. 表題:「放射線と健康」−世界の自然放射線地域の健康調査より− 目次;1.はじめに、1.世界の高自然放射線地域、3.高自然放射線と健康(a.疫学調査、b.染色体調査) とし、いくつかの調査結果(図表)を含むものとする。 b. 表題「知っておきたい世界の大地放射線のこと」―目次;1)自然界生まれの放射線、2)輝く太陽からの恵み、3)大空から降り注ぐ自然放射線、4)体内にも自然放射線、5)御影石から出ている放射線、6)地中から出てくる天然の放射性ガス(ラドン)、7)天候によって増減する自然放射線、8)温泉と放射線、9)日本列島の大地放射線、10)大地放射線がたくさん出ている地域(高自然放射線地域)、11)中国・陽江の陽光に恵まれた農村、12)中国・陽江の健やかな農村の皆さん、13)インド・ケララの美しい海岸、14)光り輝く島の国「スリランカ」、15)美しい砂浜に恵まれたブラジルの保養地ガラパリ、16)緑豊かなラムサール(イラン)、17)20億年前の天然原子炉、18)放射線のいろいろ、19)生活のなかの放射線、20)医療に貢献する放射線、21)いろいろな分野で活躍する放射線 |
4.1.2 国内複数地域における環境放射線被ばくとその情報の収集・検討 | |||
1)温泉地域における環境放射能調査 | |||
国内複数地域における環境放射線被ばくとその最新データ情報に関して、わが国の環境放射線被ばくの被ばくデータとして、日本でも有名な放射能泉である三朝温泉について、その周辺を含めた地域の屋外および屋内ラドン濃度を、更に温泉水中のラドン濃度を測定した。ラドン濃度については、比較的に線量率の低い地域である青森の温泉についても実施した。その結果、それらの屋内の濃度は生活環境条件に大きく影響を受け、また、屋外では、気象条件や地質などによって、時間的、場所、空間的にも大きく変動する事が示された.すなわち、周辺環境におけるラドン及びその崩壊生成核種の濃度分布の測定が継続的に実施されるとともに、生活環境中における挙動及び分布を把握していることが重要であり、さらに、平常時における自然放射線からの被ばく線量の評価と状況の把握が必要である事が示された。 | |||
2)その他の収集データ | |||
放射線によるリスク評価を行う際に不可欠なわが国及び米国の年次別死亡統計データについても過去に遡って整備を行った。このうち、わが国の人口動態データ(年次別死亡統計データ)については過去20年間(1986年〜)のデータを取得し、デジタル化した。これらは次年度に計画している環境レベル放射線のリスク評価に不可欠なデータである。 |
4.1.3 安全と安心に関する文献的検討 | |||
1)新聞報道に見るリスクの概念 |
a. 新聞に見る「リスク」の使われ方 リスクという言葉がジャーナリストにどのように理解され、一般読者に伝えられているのかを明らかにするために、全国紙の新聞(毎日新聞)を対象に掲載記事の調査を行った。調査では、紙面全体で用語「リスク」が使用されている記事を抽出し、その内容の簡易分類を行った。調査の結果、2005年5月9日から8月6日までの90日間で32件の記事が見られ、昨年春の調査の、2日に一回、秋の5日に一回の中間程度の出現頻度であった。しかし、その内容は経済的なことが中心で、傾向は昨年と変わらなかった。 b. リスク認知と安心と安全 前記、リスクという言葉についての新聞記事の調査で、「リスク」という言葉の定義が明確でなくいろいろな使われ方をしている現状が明らかになった。そこで、ここでは、「安心・安全」について、新聞などの情報をもとに問題を指摘し、特に、「安心・安全」という言葉の使われ方について、分析・考察した。 |
2)福井県美浜原子力発電所事故関連新聞報道について | |||
平成16年度8月9日午後3時半に、営業運転中の福井県美浜町の関西電力美浜原子力発電書3号炉で、タービン破損事故が発生し、11人の死傷者を出すに至った。本事故は放射線被ばくを伴う事故ではなかったが、運転営業中の原子力発電所で発生した死亡事故として、政治的、社会的そして科学的側面から多くの報道が行われた。事故が放射線漏れ事故の対象事例となりうる非放射線型事故であること、また一般公衆への影響が強い死亡事故であることなどから、報道が一般公衆のリスク認知にどのような影響を与えるのかについて、報道内容の長期にわたる内容分析及び報道のされ方の経時的変化等を通じた長期にわたる検討を試みた。このため、内容分析に必要な報道記事の収集・選択とデータ抽出及びテキストデータ化を実施した。抽出したデータ項目を以下の通りである。 ・配達地域・日時に関する情報:日時/曜日/地域(福井版・上中越版・千葉版)/版数 ・記事量に関する情報:専有面積、字数、関連記事・派生記事の有無と量・内容 ・掲載分野に関する情報:トップ面/総合面/社説等/政治面/文化・人文面/生活面/地方面/社会面/広告/その他の紙面 |
4.1.4データベースシステムの詳細設計及び構築 |
本調査で収集、検討された科学情報およびリスク認知調査結果等を整理し、使いやすいデータベース構築のため、ファクトデータベースシステム、ユーザインタフェース及びセキュリティ機能の基本設計を行った。次に、これら基本設計に基づいて詳細設計を行うとともにファクトデータベースの構築を行った。環境レベル放射線の線量評価・健康影響情報、及びリスク認知調査に伴う調査・解析結果を登録・検索・利用することとし、登録情報の内容分類及び登録情報は、データベース管理者による自由な変更・更新を可能とした。ユーザーインターフェースの処理・ページ関係図を示す。 |
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