2007.4.1

 
 
科学の前線散策
 
 
4. 穿刺をしないでがんの細胞診ができる

菅 原  努


 

 

 腫瘍が見つかったときにその性質を確認するためには細胞診が欠かせません。しかし脳腫瘍のような場合にはそれはかなりの危険性をともないます。英国ケンブリッジ・がん研究所のJohn Griffiths らは MRI で見つけた腫瘍についてそこに存在する特有の物質を核磁気共鳴(MRS)という方法で検出することで、細胞診に代える可能性を検討しています。これは化合物のなかの水素の原子核が、分子が違うと違った周波数に共鳴するという事実によって化合物を分析する方法です。正常組織に比べ腫瘍によってアミノ酸や脂質の組成が異なるためにこのMRSの波形のパターンにそれぞれ異なった特徴があるというのです。今までに 91 例の脳腫瘍について調べ 93 %の正確さで診断できたと報告しています。今までの MRI だけですと 80 %程度でした。この方法はさらに他の腫瘍にも応用できる可能性があります。

 これは有望な報告ですが、日本で行われた研究では、通常臨床で使われている1.5 テスラーの磁場を使った MRI 装置では、1cm 四方位が分析できる最小の面積になるので、小さい腫瘍では、周辺の組織の影響が問題になるようです。目下幾つかの研究が進んでおり、装置の進歩も含めて治療も考慮に入れた診断法として注目したいと思います。